届かないこの想いを、胸に秘めて。
「っ、待って長田さん!」
「っ、わ」
久しぶりにマヌケな声を出した。
それよりも今の状況に困惑している。
自分の目線はキミの顔より、掴まれた手首にあって、それをただ見続ける。
なにが、どうなってるの?
ど、どうしたの!?
なんで!?
同じことばっかループしているうちに、体が火照ってくるのを感じた。
電車のドアが閉じられる音を聞いて、そして、ゆっくり動き出すのを背中越しに感じた。
私たちに勢いよく風が吹きつく。
キミの柔らかそうな髪が無造作に揺れているのをみて、私も同じようになっているのかなと思った。
最後の風が通り過ぎるとキミはハッとして手を離した。
「ご、ごめん……」
目を逸らして言ったキミに私はただ頷くことしかできなくて。
触らなくてもわかるほどに手首に熱を帯びていた。
この場にいる人たちは冬の寒さで包まれているのに、私だけ真夏にいるみたい。
「……あそこ、座ろっか?」
指をベンチに向けながら、伺うように私を下からのぞき込むキミに、目線を合わせて頷いた。