届かないこの想いを、胸に秘めて。





辺りには誰もいないから、今は2人きりで。

とても静かだった。


だから大きく自分の鼓動が耳につく。うるさい程に。



冷たい風がとても心地よく感じるはずなのに、全くと言っていいほど感じなくて、

自分の膝に乗っているスクバをじっと見つめている。



間近でみたスクバにはあちこち白い線があって、結構使い込んできたんだなって感心した。




「なんかごめんね。引き止め、ちゃって」


申し訳なさそうな顔をして微笑むキミ。

私は首を振った。

謝ることなんてないのに。
……だって、私とても嬉しいから。



そんなことは言えないから代わりに「大丈夫です」と言った。




一瞬目を大きくしてから、キミはふわりと笑う。



「そっか。でも用事とかあったりは?」

「ないです」



空を見上げたキミは同じ言葉を繰り返してから、ため息とともに顔を手で覆った。




「中村くん?」

キミを呼ぶ度に小さく跳ねる心。


「ごめん、ちょっといま見ないで」

顔を覆ったまま私に言った。



なんとなくキミの耳が赤く色付いていたようにみえた。

違う考えがよぎるけど、それは無いと思ったからキミの言われた通りにする。





……なんかいま凄く幸せかも。


キミとふたりきりはとても緊張する。そしてくすぐったくて、安心する。



ふと思った。

神様は本当にいるのかもしれないって。




『時間が止ってくれればいいのに』



さっき願った思いを神様は叶えてくれたんだ。


『止まる』というよりは『与える』と言った方があってると思う。



次の電車が来るのは10分後。

その間どんな話をするのかと勝手にワクワクさせた。






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