届かないこの想いを、胸に秘めて。





「なんか楽しそう」

そう声が聞こえて横を向くと、柔らかい表情をして私を見ていた。

その目に私が映っていてドキリとする。




「なんかね、気が付いたら長田さんを引き止めてた」


変わらない表情で首を傾げるキミに私もかすかに傾げた。



「なんでだと思う?」


試すような言い方をして私をのぞき込んできた。


その問いかけに考えるよりも先に、恥ずかしさが勝って首を傾げた。


そうするとキミは笑って私から少し距離をあけた。




「あのさ、……長田さんって今まで、」


そう言い出したと思ったら途端に黙り込んだキミ。


なんだか言いにくそうな様子で顔を少ししかめていた。


そして口を開く。小さく息を吐いてから。




「恋したことある?」って。



これこそ時間が止まった気がした。







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