届かないこの想いを、胸に秘めて。





「長田さんの好きな人って誰?」


急に聞かれて心臓が跳ねて、それから口ごもった。



「っ……えっ、と。それは……」




──キミだよ。



なんて言えるわけがないから私は口角を上げて誤魔化した。



「秘密です」

「…………」

「じゃあ、中村くんは?」


黙ったキミに今度は私が聞いた。

今はなるべく明るく振舞おうと試みた。案外普通にできていて自分に驚いた。




「んー……ヒミツかな」


そう言ってイタズラに笑う。

その笑顔が切なく見えたのは私の思い違いだ。




多分ね、キミの好きな人分かる気がする。


だっていつもキミを見てたから。


きっと2人は両想い。

小さい時からずっと、これから先も想い合っていくのだろう。





「……幼なじみっていいな」


何気なく呟いた言葉は電車の音と風の勢いで掻き消された。


キミは私を不思議な目で見ていたから、この言葉は聞こえなかったのだろうと安心した。


なんでもないよ、と笑いかけるとキミも笑い返してくれた。

それがとても切なくて、嬉しくなった。







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