届かないこの想いを、胸に秘めて。





「ね、本当にそれでいいの?」

すんと鼻を鳴らせて私に言った。



「うん」

「……本当に?」


首を縦に振る。

もういいって思ったら本当によくなったみたいで、涙はなかった。


本当に終わってしまったんだなって止まった涙が意味しているのかもしれない。




「後悔とかないの?」



その言葉にぐっと喉を詰まらせた。



後悔なんて、……たくさんある。

でもただ一つだけだ。一番後悔に思っていること。





「……伝えたかった」

「……ほら、あるじゃん」


ふわっと笑った香奈恵ちゃんは私から離れて、なぜかチョークを手にした。




「こんな時にアレだけど、私のお母さんがさ、教えてくれたんだ」


そう言ってカツカツと黒板に文字を書く。


外はまだ明るくて、それが黒板に反射して私にはなんて書いてあるのか見えない。



「なんか黒板に伝えたいことを書くと、いい事が起こるんだってさ」


そう言った香奈恵ちゃんは黒板に影を作った。

そうすると私の目にはハッキリと映し出される。黒板に書いてある文字が。




〝大丈夫〟



白で書かれた角張ったきれいな字。

その文字にはたくさんの意味や想いが込められているように思えた。







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