届かないこの想いを、胸に秘めて。
「つい最近教えられてさ。家でなんか恋の話をしてたらお母さんと父さんの出会いにまで遡って聞かされちゃってね」
そう言って教卓に寄りかかりながら宙を見上げる。
「黒板にたまたま書いたことがキッカケで私の両親が結ばれたんだって」
こんなの偶然だと思うんだけどね、と私をチラッと目を向けて微笑んだ。
その当時、恋のジンクスというおまじないが流行っていたらしい。
その中の一つが黒板のジンクス。
『白のチョークで誰もいない教室の黒板に願い事を書くと、近いうちにいい事が起こる』と。
それに半信半疑で乗っかった香奈恵ちゃんのお母さんは、いま、こうして好きな人と結ばれて香奈恵ちゃんという大きな宝物に巡り会えている。
「ごめん……。本当は聞いた次の日に言うつもりだったんだけど」
その香奈恵ちゃんが言った次の日というのは委員会があった日だった。
その日はキミの好きな人を知った日。
だから教えてもらわなくてよかったと思う。
教えたてもらったところで結果的にはフラれてしまうのだから。
「香奈恵ちゃん、いいんだよ。結局はフラれるんだから」
「……そんなこと、そんな笑顔で言わないでよ」
悲しいはずの私より香奈恵ちゃんの方が泣きそうな表情をしている。
それがおかしくて。苦しくなった。