届かないこの想いを、胸に秘めて。
さっきの文字を消して、まっさらになった黒板に書く。
ずっとキミに言えなかった言葉を。
なんで口では言えないのに、書くことはできるんだろう。
こうやって普通に言えたらいいのに。
会いたいと願って書いたふたつの文字は、ぼやけてて見えなくなっていた。
もう、終わったと思ったんだけどな……涙。
頭に乗っかった手に気づくと静かにまた涙を流す。
子どもをあやすように優しく撫でる手はとても温かくて心地よく感じた。
しばらく泣いて、落ち着いたのを見計らった香奈恵ちゃんは私の隣に来て「OK?」と尋ねてきた。
にっと笑う香奈恵ちゃんに「なにが」という表情を浮かべて見る。
するとチョークをを手にして同じ文字を書いた。
「えっ、なにしてるの!?」
思わずそう聞くとまた同じ文字を書いた。
「~♪」
鼻歌を歌いながら手を進めていく彼女をただ見ていると、いつの間にか黒板にはたくさんの〝好き〟の文字が広がっていった。
まるで呪文のよう。
「ふぅ〜……これでよし!」
満足気に笑って手についた白い粉を落としながら言う香奈恵ちゃん。
「あの、香奈恵ちゃん?これは……」
一体なんの儀式ですか?
そう目線を送ると。
「私、特別Magic!」
ウインクを向けてgoodポーズを作る香奈恵ちゃんにあほ面を向けた。
「て、やばいな!これ。てか怖っ!」
黒板を見上げて笑い始めるから、私も笑った。
つられて笑ってしまったんだと思うけど、それでもやっぱりこの文字の多さは気持ち悪いほどに可笑しかった。