届かないこの想いを、胸に秘めて。
「そろそろ帰るけど、中村は?」
ふたりして香奈恵ちゃんの席に近寄って、置かれてある荷物を持つ。
その場に立っているキミに香奈恵ちゃんが聞いた。
「あ、俺も帰るところだったんだけど。……忘れ物を思い出して」
そう言って背負っているリュックを指さす。
笑ったキミは少し私と目を合わせて、そして逸らした。
不思議と胸の高鳴りはしなくて、普通に笑い返してる自分がいて、内心驚いてた。
「ふーん」
「え、なに。その顔」
「いーえ?別に何でもないですけど?」
「なんだよそれ!」
ふたりの後ろ姿を眺めて思わず笑った。
……なんだ。私、普通に笑えてるじゃん。もう吹っ切れたのかな?
想いが消えるのには早すぎると思いながらも、そう思うことにした。
だって、まだ、油断できないから。
「どうしたの?香奈恵ちゃん」
そう言ったのは急に振り返って意味深に笑ったから。
……え。なに。なんか怖いんですけど。
しかも嫌な予感、がする。
「ねえ、中村。さっきの文字の秘密知りたい?」
「……え、なに急に……」
「で、知りたい?」
ちょ!香奈恵ちゃん!?
「雪菜〜、教えてあげてもいいよね?」
振り向いて笑う香奈恵ちゃんに思い切り首を振った。
だめだよ!ダメに決まってるじゃん!!
だってあれは、キミへの──。
酷いと心の底から思った。香奈恵ちゃんがとても悪魔にみえた瞬間だった。