届かないこの想いを、胸に秘めて。





「そろそろ帰るけど、中村は?」


ふたりして香奈恵ちゃんの席に近寄って、置かれてある荷物を持つ。

その場に立っているキミに香奈恵ちゃんが聞いた。




「あ、俺も帰るところだったんだけど。……忘れ物を思い出して」



そう言って背負っているリュックを指さす。

笑ったキミは少し私と目を合わせて、そして逸らした。



不思議と胸の高鳴りはしなくて、普通に笑い返してる自分がいて、内心驚いてた。




「ふーん」

「え、なに。その顔」

「いーえ?別に何でもないですけど?」

「なんだよそれ!」


ふたりの後ろ姿を眺めて思わず笑った。



……なんだ。私、普通に笑えてるじゃん。もう吹っ切れたのかな?




想いが消えるのには早すぎると思いながらも、そう思うことにした。

だって、まだ、油断できないから。





「どうしたの?香奈恵ちゃん」


そう言ったのは急に振り返って意味深に笑ったから。



……え。なに。なんか怖いんですけど。

しかも嫌な予感、がする。





「ねえ、中村。さっきの文字の秘密知りたい?」

「……え、なに急に……」

「で、知りたい?」



ちょ!香奈恵ちゃん!?


「雪菜〜、教えてあげてもいいよね?」


振り向いて笑う香奈恵ちゃんに思い切り首を振った。


だめだよ!ダメに決まってるじゃん!!

だってあれは、キミへの──。



酷いと心の底から思った。香奈恵ちゃんがとても悪魔にみえた瞬間だった。





< 235 / 306 >

この作品をシェア

pagetop