届かないこの想いを、胸に秘めて。





「行こっか」

「あ、うん。……ごめんね。一緒に帰るところだったのに」

「気にしないで、長田さん。鴇田とはここでたまたま会っただけだから」

「うわー淳介。そーゆーこと言うんだー」

「だってそうじゃん」



目の前で小突き合うふたりをみて、仲良しだなと笑う。

それにキミってこういう事も言うんだと、自分にとって新たな発見をみつけた。


ふとサナくんと目が合って「いつもこうなんだよ」と笑って言うからより強く頷けた。



……気のせいかな?サナくんが悲しそうに笑ったのは。





今すぐにでもキミに伝えたい。

いまの私なら伝えられそうな気がする。

目の前に、すぐ手を伸ばせるところに、キミがいる。




でもその前に、私には準備が必要なんだ。

心の準備もそうだけど、キミに伝えるには今抱えている全てを、キレイに整頓しておきたいから。




「……大丈夫?長田さん、顔赤いけど……?」



その声とともに体が弾かれた。

のぞき込んできたのは、キミだったから。

間近にある顔に驚いて、一歩下がってしまった。



……なんか、悪いことしちゃったかな。不思議に思われたかな……。



そう思いながらも顔が熱くなっていくのを感じて、キミに見られまいと俯いた。



「あ……っと、じゃ、オレたち帰るわ」

「お、じゃーな!」


サナくんの声でパッと顔を上げると、2人が私たちに手を振って、背を向けて歩いて行った。






< 256 / 306 >

この作品をシェア

pagetop