届かないこの想いを、胸に秘めて。
残された私と鴇田くんの間に静かな風が通った。
小さく深呼吸をする。
さっきのとは違う胸の高鳴りを鎮めるために。
2人が消えた方向を眺めていると、彼の声が乾いた空気に放たれた。
「とうとう来ちゃったかー」
その声が言葉が、私の心を締めつける。
「アイツらに、嘘吐いちゃったな〜」
今度は明るい口調で言うから、なんだか泣きそうになってきた。
喉の奥が熱くなる。
ごめんね、鴇田くん。
ずっと私を想っていてくれていたのに。その想いに応えられなくて。
……ごめんねっ。
「ぷっ、……なに泣いてるんだよ〜」
彼の手が伸びてきて、そっと目元を拭った。
いつの間にか涙が溢れてきたらしい。
「ぁ!ご、ごめん!悪い意味で言ったんじゃないんだっ」
「う、ん」
知ってる。知ってるよ。
ダメだ。もう鴇田くんを思うと苦しくなる。
泣きたいのは鴇田くんなのに。
そんな彼は私に笑いかけてる。
……どうして、笑顔でいられるの?
人前で泣くなんて恥ずかしいだけなのに、今はそれどころじゃなくて。
ただただ涙を溢れさせた。