届かないこの想いを、胸に秘めて。
「ぅわあ、なにここ!スゲエ!」
「凄いでしょ。ここ私たちのお気に入りなんだ」
「へぇー。いかにも秘密な場所って感じだね」
まさかこんなところに教室があるなんて、と教室中を見渡しながら口々に漏らしていた。
この教室はなぜか不明なんだけど、壁の向こうにある造りをしていてね。
香奈恵ちゃんが第一発見者で、それからは大事な話とか相談事とか、いろいろここを利用していた。
去年のあの事件。
私は『早とちり事件』と勝手に名付けちゃってるんだけど、
その時もここで。
だからこの場所は私たちの思い出の教室なんだ。
多分この教室を知っているのって数少ないんじゃないかな?
もしかすると、私たちだけが知っているなんて……そんなことはないだろうけど。
でも、新人教師はこの存在は知らないと思う。
そう思うと嬉しくてつい顔がほころんでいく。
そして、最大の証拠はドアノブが無いから、だと思う。
この教室のドア引き戸になっていて、全てが一体化しちゃってるんだよね。
ドア自体が壁と同じ質で同じ色をしているから尚更。
本当になんでこんなの造ったんだろう?
本当に不思議。
それはそれは、まるでアートの世界にいるみたいだから。