届かないこの想いを、胸に秘めて。





これは現実。夢じゃない。
夢でも過去にタイムスリップしたわけでも、ない。



そう思えたのは、保健室に着いてから。




またキミに連れてこられてしまった。

連れて来られながら、私が転んでたところから見ていたとキミに言われて、急激に体が暑くなった。



季節外れにいるみたい。

とにかく手が。キミの手が、私を真夏に連れていった。




「あら、長田さん久しぶり」

「吉瀬(キチセ)先生、お久しぶりです」



顔を合わせると距離を縮めて笑う先生は、今日は長い髪を上に結んでいた。




膝に視線が移ると「またハデに転んだのね」と上品に笑って救急箱を取りに棚へ向かった。



『また』と言ったから先生も去年のことを思い出したのかなと思う。


少し気になった先生の含み笑いに、私はチラッと隣を見た。




「……あの、中村くんは教室行って、いいんだよ?」


なんとか振り絞って言うと、笑って「うん」と答えるだけで行こうとはしなかった。



なんでこうなってるの?!
もう夢じゃないと分かってるんだけど、どうしても信じれなくて。


頭がパニックを起こしてる。


コトっと音がして、先生が目の前にしゃがむ姿を目に、これからくる痛みに耐えるためギュッと目を瞑った。






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