届かないこの想いを、胸に秘めて。
それから私たちは各自教室に戻って私物を持って合流した。
怖さを感じていた心はもうここには無くて、自然と桃田さんのことを『紗姫ちゃん』と呼んでいた。
桃田さんも私のことを下の名前で呼んでいるからなんだかくすぐったくて。
お互い同じ人を好きになったのに、こんなにも自然に距離を縮めてる私たちって珍しいんじゃないかな?
といっても、紗姫ちゃんの方が長く片想いをしていたんだけどね。
「で、いつ言うの!」
まだ聞いてくる紗姫ちゃんに半ば呆れつつ、可愛い顔して見上げる彼女に「14日」と口先で言った。
「わあ、定番じゃん」
両手を合わせて弾む声に私の顔はほんのり色づく。
定番といった14日は、バレンタインだ。
世界ではこの日をカップルの愛を誓う日とされているらしい。
私の場合は、ただ想いを伝えるためだけの日になるんだ。
だから、何も渡さない。
本命をあげたとしても、想いはそこで終わりでキミには届かないのだから。
それに、諦めるためにはこれ以上のことをしちゃいけないと思うから。
すべてを終わりにするために。
「雪菜ちゃん、あたし応援してるから」
「えっ……」
「なによ、その顔。応援するって言ってるんだから喜んでよ」
いや、まさかそんな言葉を言われると思わなくて。
正直びっくりした。
しかも笑顔で言うもんだから。どう答えたらいいか困ってしまう。
「はぁーあ!悔しいなあ」
突然大声を出した彼女の声が昇降口に響く。
それにビクッと肩を震わせ紗姫ちゃんを見ると、なぜか私にべーっと振り向きざまにして、笑った。
「なにそれ」
「ふん、なんとなくムカついたから」
ローファーに履き替えながら言う声はなんだか楽しそうで、自然と笑みがこぼれた。