新月の王 Ⅰ
バイクを走らせるとあの頃を思い出す。このバイクは兄の愛車の一つだった。バイクが大好きだった兄は何台かのバイクを日によって乗り換えてた。その全てのバイクは大切に乗られ、整備も素晴らしいとバイク屋さんが褒めていたほど。


だから兄が亡くなっても、引き取ってもらう気にはならなかった。こうして今は私が乗っている。


私が自分で買ったのは学校に置いてある、まっくろくろすけだけだった。きっとお兄ちゃんならだっせー名前だなって笑って頭を撫でるに違いない。


「ふっ」


あの頃まだ中学生だった私は、塾と学校の送り迎えを兄がしてくれていた。それが鬱陶しくて仕方なかった。
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