新月の王 Ⅰ
「上手く行くかどうかなんて私は知らないし、はっきり言って興味もない。だけど一人で文句言いに来た貴女は卑怯ではないと思う。こんな事しないで自分の気持ちをちゃんとしてあげたら?」

「・・・っ」

「彼らの誰を好きなのかは知らないけど、貴女の好きな彼はきっと間違いなく良い男だから。ちゃんとしたら?」

「・・・うぅっ」

「まっ、貴方の自由なんだけど、卑怯じゃない人間は嫌いじゃない。余計なお世話だったらごめんね」

「・・・ごめんなさい」

「自分の価値を下げない方が良い」

「・・・ありがとう」


やっぱりこの子は卑怯じゃない。こんな状況で謝罪とお礼が言えるのはもともと素直で純粋な子ってことだ。


「それと・・・震えるぐらいなら手を出すのやめた方が良い」

「・・・え?」

「人を殴る時は覚悟が必要。その覚悟が出来ないなら、手出すもんじゃない、だから震えるの」

「・・・」

「貴女にその覚悟は必要ない・・・でしょ?」

「・・・ごめんなさい」

「もうひとつ、順位が落ちて悔しいなら努力して上がってくればいい。僻んで落ち込む前にやる事あるでしょ?」

「・・・うん」

「分かったなら・・・いい」

「・・・ありがと」


やっぱりこの子は誰かを凄く好きなんだ。その思い人が誰かは知らないけど、ちゃんと思いは伝えた方が良い。後で気付いた時には遅い時だってあるんだから。
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