新月の王 Ⅰ
その子が居ない事に気付いたのは俺の母親だった。誰に何を言われるわけではなく、俺は走り出してた。


その子を見つけたのは、葬儀場の中庭にある小さな池の畔で空を見上げて佇んでいた。


クリスマスが過ぎてすぐのその日は、朝から雪が舞い散る程の凍てつく寒さだった。


そんな中、コートも着ずに中学の制服を着た女の子の顔色があまりにも白く儚くて今にも消えてしまいそうで、俺は羞恥とかそんなの考える暇もないくらいに着てたコートをその子に掛けたんだ。


「中に戻ろう」


俺の声に気付いたその子は、少しの笑みを表情にのせて振り向いたのに、視線が交わる事はなかった。


その子に会うのは3回目。1度目は悲痛すぎる泣き声、2度目は哀しみの泣き声、3度目は“無”だった。


その少し茶色い瞳からは、全ての光が消えていた。


俺はその場から動けなくなってしまった。
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