新月の王 Ⅰ
目の前に居る俺ですら映さない瞳が怖かった。こんな瞳を俺は見た事もなかったから。


俺の家の家業の所為で、色んな人を見てきた。だけど、こんな瞳をした少女を俺は知らない。見た事ない。どうしていいのか分からない。


わずか半年くらいの間に家族全員を失ってしまった少女は、絶望の感情ですら映さないほど、無だった。


感情は瞳に宿る。


と親父から教えられていた。どんな感情も瞳を見れば分かる。言葉は信用出来ない。瞳を見ろ、人を見る力を養え。敵か味方か見極める力を付けろと幼き頃から教えられていたから。


喜怒哀楽、欲、金、絶望、死、色んな瞳を俺も見てきた。



“無”



こんな何も見えない、何も映さない瞳は初めてだった。
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