新月の王 Ⅰ
ただただ少女の前に立つ俺を発見したのは、兄貴と母親だった。


「玲央奈ちゃん!」


母親はそう呼んでその子を抱きしめ建物の中へ入って行った。立ち尽くす俺は兄貴に頭を叩かれて


「てめぇは何やってんだ」


と言われても、動けなかった。


「兄貴・・・」

「なんだ」

「・・・俺、あんな目・・・初めて見た」

「・・・」

「・・・どうしたら、あんな目に」

「・・・」

「・・・」

「・・・俺らには、分かんねぇよ」


兄貴にが発したとは思えないほど小さな声で、兄貴の言葉が何を意味していたのか分からなかった。


少しして葬儀が始まるからと兄貴に連れられて葬儀場に向かった。


葬儀が終わって家に帰ってからもあの目を思っていた・・・。
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