夏の日、僕は君の運命を変える
第18章 31年7月25日
「ねぇ、お父さん」
「水樹?今日は補習じゃなかったか?」
「聞きたいことがあるんだけど」
午後から出勤の父はソファーに座り新聞を広げていた。
僕は少し隙間を空け隣に座り、単刀直入に聞いた。
「まだ事故に合う前の僕のこと、徹底的に教えてほしい」
「何を……」
「知らなくちゃいけないんだ」
「…と、言ってもだがなぁ…」
父は新聞を閉じ、息を吐いた。
「覚えていないかもしれないが、俺はお前の母親が死ぬまで、ずっと家族より仕事第一の人間だったんだ。
家族を忘れたことはなかったが、優先順位は仕事の方が上だったんだ。
だからお前のことも全部、母さんに任せきりだった」
「…それ、僕は何か言っていた?」
「1度夜中に会った時、何も言わないで俺を睨みつけてきたのが最後だ。
それ以外、俺はお前のことを何も知らなかった」
「……」
「事故に合ったと聞いた時も、一命を取り止めたと聞いてすぐに仕事に向かったほどだ」
僕は父をどんな風に思っていたのだろう。
嫌いだった?尊敬していた?
「水樹、無理するな」
「……」
何か小さなことでも思い出したくて、こめかみの辺りをグリグリ指で押すと、止められた。
「俺が言うのも何だが、昔に囚われずこの先だけ見て行けば良いんじゃないか」
「でもそれじゃあっ……」
「無理してほしくないんだ」
どういう気持ちで言ったのかわからないけど。
僕は壁にかけられた時計を見て、「補習の時間だから行くね」と言って家を出た。