夏の日、僕は君の運命を変える






「にしても水樹に聞かれていなくて良かったよなー」



太田の声が近づいていることに、気付かなかった。




「小説とかだと死角の位置にいて、実はー…って、あぁっ!?」

「ッ!!」

「み、水樹ッ!?」




太田の顔が間近にあり、耳がキーンとする。

すぐに宍戸先輩と筧さんも顔を見せた。



「春田、どうしてここにいるんだ」

「そ、れはっ……」

「まさかあんた、あたしを追って!?」

「ち、違う。ストーカーみたいに言わないでくれ。
僕はただっ…補習で大学に来ただけでっ…」

「……春田、聞いていたの」

「し、知らないっ…何も知らないっ…」



もし出来過ぎた偶然が偶然じゃなかったら。

3年前の8月25日、春沢心はあの事故で亡くなった。

そして今、僕は3年前に生きる春沢心と出会っている。



「……心ちゃんがっ…死ぬなんてっ…!」

「水樹?」

「電話で話したんだ、心ちゃんと。
心ちゃんがっ…ここちゃんが死ぬなんてっ…!」

「……春田、水樹」



筧さんが僕の名前を呼ぶ。



「希和……?」

「…3年前にあたし、心から聞いたの。
3年後に生きる、春田水樹と電話で話しているって。
ほら、勝志も聞いたでしょ、あの黒いスマホ拾ったって話!」



黒いスマートフォン。

僕と3年前を繋げているアイテム。



「あ、うん…聞いたことある」

「あれ3年後と電話出来るスマホだったの!
心は3年前、あのスマホで春田水樹って人と話していたの!」

「つまり、春田ってことか?」

「もしかしたらっ…!
春田、話しているんでしょ?心と!」

「…話してる、うん、話している…」

「春田聞いて。
3年前の8月25日、あんたと今話している春沢心はあの交差点で事故に合って死ぬの。
あの日心と約束をしていたあんたは、事故に合った」

「っ……!」



ズキンッと大きく痛んで顔をしかめる。




「おい筧、やめておけ。
無理して水樹に思い出させようとするんじゃねぇよ」

「太田は黙ってて!
だって今心を救えるのは、春田だけなんだよっ!?」

「……っ……」

「春田なら心を救える。
心は春田のことが好きなんだよ?
春田だって、心のことが好きなんじゃないの?」



ズキン、ズキンと重く痛む。

立っていられなくなって膝から折れそうになり、太田に支えられた。



「筧、今はやめておけ。
水樹に負担がかかりすぎている」

「だってっ……!」

「ともかく今は落ち着け!
コイツが春沢を助ける前にぶっ倒れる」

「……っ」

「水樹、立てるか?」

「……む、り……頭痛いっ…」

「医務室行こう。そこで休んでろ」



太田と宍戸先輩に手伝ってもらい、大学内の医務室に運ばれる。

ベッドの上横になりながら、事故に合った時を思い出そうとした。





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