夏の日、僕は君の運命を変える






28年8月25日。

“僕”は恐らくあの日、春沢心をデートに誘った。

デートと呼べるかわからないけど、ともかくふたりきりでのお出掛けに出た。

目的は、あの机の上にあったグシャグシャになってしまった封筒の中に入っていた柏ユメのサイン会。

春沢心が柏ユメのファンだとわかったから、きっと母に頼んでチケットを取ってもらったんだ。



「……う…」



しかし机の上にあったということは、行く前に事故に合ってしまった。

1枚しかなかったのは、きっともう1枚は春沢心に渡していたから。

“僕”が春沢心を好きだったのは、封筒に書かれた文字によって明らかになっている。




【目的を達成したら、改めて好きだと伝える。
頑張れ、未来の俺!】

“僕”の字で書かれた、“僕”の知らない文面。

きっとちょくちょくこの文面を見て、勇気を貰っていたんだと思う。



文面を書いた時、どんな気持ちだったか覚えていないけど。

きっと、楽しみにしていたはずだ。

希望で満ち溢れていたはずなのに、その矢先に起きた事故。

何度も春沢心を呼んでいたと、宍戸先輩のその場に居合わせた知り合いが目撃していたらしい。



「っ…う……」




あの日誘わなければ良かった?

あの日、逆の立ち位置にいれば良かった?

どうすれば彼女を救えたのだろうか。

今も、昔も大事な存在だった彼女を。




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