夏の日、僕は君の運命を変える
かっちゃんが部室を出て行って15分後。
ボール拭きの終わったわたしたちは、帰路につくことにした。
希和は電車通学だから、学校前で別れてひとり家を目指す。
『~♪』
『もしもしー?心ちゃーん』
「こんばんは春田さん」
『こんばんはー。今日はどうだった?』
春田さんとは何も音沙汰がなかった1週間が嘘のように、毎日のように放課後になると電話がかかってくる。
お互いいつ連絡して良い時間か話すと、放課後がふたりの空いている時間だったから。
春田さんはわたしの放課後が始まると同時に大学も講義が終わり、それからアルバイトの時間まで暇だというので、わたしが暇潰しの相手になっている。
まぁわたしも今日が異例だっただけで、普段は暇なので丁度良い。
春田さんと通話を始めると、春田さんは決まってわたしの学校での出来事を聞きたがる。
わたしが一通り学校でのなんて事のない出来事を話し終えると、今度は春田さんの大学での出来事を聞くのだ。
たまに前日がアルバイトの日だと、アルバイトでの出来事を聞いたりもする。
アルバイト禁止の高校なので、わたしにとっては新鮮な出来事ばかりだ。
「そういえば、今度友達にスマホのこと聞かれた時、もう持ち主に戻ったって話しておくことにしました」
『そっちのスマホのことは心ちゃんに任せるよ。僕の手元にはないからね』
希和の名前は伏せているものの、わたしは友達から春田さんのスマートフォンについて聞かれていることを話している。
写メらせてほしいと言われたことを話すと、春田さんも焦っていた。
『僕は写メられても良いんだけど、そっちにはない機種だとわかったら心ちゃんが大変だよね。
何でそんなない機種持っているんだーって』
「下手したらわたし、社長級の方に会っちゃうかも」
『話に尾ひれ背びれついて心ちゃんが制作したってわかったら大変な騒ぎだよ。
女子高校生、スマートフォンを作る!ってね』
「わたしは根っからの文系なので困りますね…それ」
『心ちゃん文系なんだ?根っからの。
本好きだから文系かなーっとは思っていたけど、根っからとはね』
「根っからですよ。
数学や化学はちんぷんかんぷんで、赤点取らないよう毎度必死です」
『高校は文系理系問わず全教科やるもんね。
大学では理系やらないから楽だよ』
「春田さん文学部ですか」
『そう。
本が好きだから出版社とかに就職とか考えているからね』
「出版社…就職かぁ。わたしそんなの考えたことないや」
『まだ2年生だもん。焦らなくて良い時期だよ。
ゆっくり自分と向き合って、就きたいと思う仕事考えてね』
「はい!
あー、でも理系の仕事に進まないのは確かですっ」
『あははっ、心ちゃん面白いねー』
春田さんは大学生なだけあって大人で、柔らかい声音で楽しい話を考えてくれる。
話題を広げるのが上手い、とでも言うのだろうか。
難しいこともそんなに言わない、マイペースな人みたいだ。
最近は雨が多かったけど、今日は珍しく晴れていて夕焼けが空に広がっている。