夏の日、僕は君の運命を変える
俺の父さんは絵に描いたような仕事人間だった。
母さんと出会った当初から仕事を優先するような人で、でも父さんを薦めてくれた親戚の手前で文句は言えないで、そのまま結婚。
母さんは出版社で働きながら、ほぼ女手一つで俺を育てた。
だから自分で言うのもなんだけど、母さんと俺の仲は良かったと思う。
元々俺が学校行く時間に寝ていて、俺が寝てから帰るような生活リズムを送っていた父さんと話す日はあまりなくて。
ただでさえ距離が空いてしまう俺と父さん。
決定的にその距離が離れたのは、父さんに隠し子がいると発覚した時だろう。
太田瑞樹(みずき)。
それが父さんと、母さん以外の女の間に生まれた息子。
幸い向こうの女の旦那が自分の息子として育てると言ってくれたから、大した騒ぎにならなかったけど。
それ以来母さんと父さんの喧嘩は間違いなく増えたし、俺も父さんを嫌うようになった。
それから数年後、高校に入学した時。
1番仲良くなった奴の名前が、太田瑞樹。
向こうからカミングアウトしてきて、俺は言葉を失った。
それ以来だと思う。
俺が下の名前で呼ばれるのを嫌い、太田のみ男子を上の名前で呼ぶようになったのは。
正直学校や家にいるのは辛かった。
太田はやけに馴れ馴れしく絡んでくるし、家に帰れば母さんは父さんと電話で喧嘩をしているし。
憂鬱なまま過ごして2年生になった俺は、バスケ部マネージャーを通じ春沢心と知り合った。
宍戸先輩に恋している、筧の親友。
宍戸先輩のことを話している春沢は綺麗で、幸せそうで。
見ているだけで、憂鬱な気分が少しだけ晴れた気がする。
宍戸先輩は憧れだ、春沢の恋を邪魔するつもりはない。
だけど、友達として春沢の力になれたらそれで良かった。