夏の日、僕は君の運命を変える






店内に入り、「いらっしゃいませ」と言ってくれる店員さんに会釈を返しながら品物を見る。

可愛いし、お値段もお手頃。

学生の身分でも買えそうで良かった。

スマートフォンは通話中だけど、切らないようポケットに仕舞ってある。




「こんにちは。どのようなものをお探しですか?」

「えっ」

「良ければお客様のご希望に沿った品物をご用意致しますよ」

「あ、ありがとうございます。それじゃ…」



正直店員さんに話しかけられるのは苦手だけど、アクセサリーに詳しくないのでここは頼むことにした。

どういうのが良いかな…。

店員さんの笑顔を伺いながら、さっきまで話していた水樹くんとの会話を思い出す。



「……証」

「え?」

「何かその…証になるような、ネックレスが、欲しいです…」

「証、ですか…」



不思議そうな顔をする店員さん。

困らせちゃった…。

確かに証になるような、なんて曖昧なことを…。



「では、こちらはいかがでしょうか」

「へ?」



あるの?

店員さんが見せてくれたのは、ネックレスというよりペンダントに近いものだった。

少しくすんだ黄金色の、アンティーク感漂う縦に長い型。

型の中には石がはめ込まれている。



「この中にはめ込まれている石は交換が不可能ですが、裏には文字を刻印することが出来るのです」

「文字を…?」

「はい。
何かの記念日や、お客様のおっしゃっていた証になると思いますよ」



店員さんが見せてくれたサンプルには、男と女の名前、そして日付が刻印されていた。

これはこの男女が付き合った日を刻印したものらしい。



「刻印する文字は自由にお客様の方で考えられますよ」

「…刻印するのにお金は…」

「代金はペンダントのみです」

「これ……良いかも……」

「文字を刻印するのに1時間ほどお時間を頂きますが」

「これにしてください…!」



値段も千円は超すけど、自分のお小遣いで買える。

先にお支払いを済ませ、刻印する文字を決めることにした。



本当は水樹くんに何を刻印するか聞いても良いけど、内緒にすることにした。

わたしたちが会えた時、見せられるように。




「これにします」

「かしこまりました。
1時間ほど経ちましたら、またお戻りになってください」

「わかりました」



お店を出て、通話中のスマートフォンに手をかけ、耳に当てる。



「もしもし?
良いのが見つかったよ」

『どんなのにしたの?』

「ペンダント。
裏に文字が刻印出来るみたい。
今文字を決めて刻印してもらっているんだ」

『何て文字にしたの?』

「内緒!
会えた時に見せてあげる」

『じゃあ絶対会わないと!めっちゃ気になるから』

「楽しみにしてて。
あと、少しお願いがあって…」

『ん?』

「終わるまで1時間ぐらいかかるんだって。
終わるまで付き合って貰っていても良い?」

『勿論!
僕今日バイトないから、好きなだけ電話出来るよー』

「じゃあ今日はとことん付き合ってもらうね!」

『それ、飲み会で使う台詞だよ』



その後もわたしたちは、一緒にフードコートで食事をしたり、椅子に座って他愛もない話に花を咲かせていた。

ずっとずっと、笑顔が絶えなかった。




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