夏の日、僕は君の運命を変える
連れて来られたのは、バスケ部部室。
希和とかっちゃんと揃った場所だから顔をしかめてしまい、奥村に怪訝(けげん)な顔をされた。
「ごめん、この場所嫌だったか」
「ううん、何でもない。どうしたの?」
「…元気ねぇから、何かあったのかと思って」
「もしかして、心配してくれたの?」
「隣の席だし、この間勉強教えてもらったから、お礼的な感じで」
「そっか。うん…実はね」
元を辿れば希和とかっちゃんの関係が怪しいことを睨んでいたのは奥村だ。
知る権利があるのかもしれない。
「昨日、見ちゃったんだ。希和とかっちゃんが手を繋いでいるの」
「……あのふたり、本当に付き合っていたんだ」
「その前には、他にも人がいるって言うのにキスしてたんだよ」
「……マジ?」
「わたし、言っちゃったんだ、希和に。裏切り者って」
「……」
「でもそうしたら、かっちゃんに頬っぺた叩かれちゃった」
「……」
「希和のこと裏切り者って言うなって言われちゃった…。
希和はわたしの気持ちを知りながらかっちゃんと付き合ったから、裏切り者っていうのは当然だと思ったんだけど、間違っているみたい」
「……」
「奥村は、誰かを好きになったことある?」
「……ある」
「好きな人を追いかけて同じ高校に進学したこととか、応援したくてマネージャーに立候補したこととか、試合に行ったりすることって、間違っているのかな」
「何で」
「気持ち悪いって言われたの。
追いかけるのは気持ち悪いって。
……わたしが、間違っているのかな…」
ぽろっと涙がこぼれ出す。
「間違っているわけねぇだろ。
好きな人を追いかけたり、目で追ったり、助けたいって思うのは当然だろ。
好きな人には笑顔でいてほしいんだし」
「笑顔…。
わたしもかっちゃんに頑張ってもらいたくて、笑顔になってほしかったのに。
結果が気持ち悪いだよ…わたし、かっちゃんを傷つけているだけだ」
「春沢っ!」
少し大きな声でわたしを呼ぶ奥村。
「前から思ってた。
春沢は、自分のこと否定しすぎ」
「え……」
「春沢が言うこと、全部気持ち悪くなんてねぇよ。
先輩のこと悪く言いたくねぇけど、宍戸先輩の言った気持ち悪いってのは間違ってる。
それなのに春沢は自分が悪いって決めつけたり、自分のこと否定しすぎだ」
「……っ」
「たまには自分で自分のこと褒めてやれよ。
頑張った、自分頑張った、お疲れ様って褒めてやれよ」
どこかで聞いたその言葉が、妙に心に沁みた。
「春沢が自分のこと褒められねぇって言うなら、俺が褒めてやる。
頑張ったじゃん、春沢、頑張ったよ。
結果はどうであれ、宍戸先輩のためにいっぱいやっているじゃねぇか」
「……奥村…」
「頑張ったな、春沢」
そっと、奥村に抱きしめられる。
奥村の制服から、ふわりと漂う爽やかな香り。
洗剤かな…良い匂い、わたし好みだ。
「泣いて良いから」
「え……」
「黙っておくから、泣いて良い。
俺と春沢の秘密」
ぎゅっと、さっきより強く抱きしめられる。
奥村の力強い声と、少し震えているわたしを抱きしめる手と、伝わる体温に。
わたしの涙腺はあっという間に崩壊した。