夏の日、僕は君の運命を変える
「これ…」
「わたしだって嘘ついていたの。
持ち主に返ったなんて、わたしがでっちあげた嘘なの」
「どういうこと…?」
「これは、4月に拾ったの、道端で。
すぐに持ち主から公衆電話を通じて電話がかかってきて、返すことになったんだけど」
「現れなかったの?」
「違う。
落ち合う場所に行ってみたんだけど、その人はいなかったの」
「それが現れなかったんじゃ…?」
「信じられないかもしれないけど…その人、平成31年の人なの」
希和はポカンと口を開け、「は?」という顔をしていた。
「持ち主は、駅の公衆電話を通じて電話をかけてくれたんだけど、その人がいるって言う公衆電話には誰もいなかったの。
相手もわたしが見えていないって。
日付を聞いたら、その人は31年の3年後に生きている人だってわかって」
「そ、それ本当?」
「本当なの。
現にその人は駅近くの改装中のスーパーの3階でバイトしているの。
そのスーパーに入るってちらしに書いてあったファミレスで」
「……」
「信じてもらえないかもって、わたしが頭可笑しい人だって思われるかもって思って、言えなくて嘘ついたの。
3年後の人に返せないから、このスマホもずっとわたしの手元にあって」
わたしは机におでこを付けるような感じで、深々と頭を下げた。
「黙っていて、嘘をついていて、ごめんなさい」
「心…」
「この間ショッピングモールで会った時も、その人と電話をしながらお出掛けしていて」
「だからずっと耳にスマホ当てていたんだ。
色まで見えなかったけど」
「ごめんね、本当ごめんなさい。希和」
「…頭上げて、心」
言われた通り頭を上げると、希和は笑っていた。
夕焼けに照らし出されていて、綺麗だった。
「隠していたのも嘘ついたのも無理はないよ。
あたしが心と同じ立場だったら、同じよう隠していたよ」
「希和…」
「あたしの方こそ、黙っていてごめんね」