夏の日、僕は君の運命を変える
第8章 28年8月23日
夏休みに入って数週間。
わたしはどこにも行かず、ただ部屋の中でゴロゴロしていた。
わたしは休みだけど両親は変わらず仕事で、家にいない。
静かな家の中、外にいる蝉だけが騒がしかった。
『3年後、君は僕の世界にいない』
思い出すのは、水樹くんのその言葉だけ。
どういうことなんだろう。
聞きたくても、怖くて聞けない。
水樹くんの言葉が本当なら、わたしは3年の間に死んでいることになっている。
死んでいるなんて、そんなの「はいそうですか」と信じられる方が可笑しい。
わたしは健康で、病気は持っていなくて、当たり前のように明日を待っている。
明日が来るのが当たり前じゃなくなる日なんて、信じたくない。
わたしは今日も明日も3年後も10年後も、変わらず生きている。
そう無条件に信じてきたのに。
水樹くんからはあれから何度も電話が来ているけど、無視している。
遂には10分おきごとに電話が鳴るようになって来たので、鞄の中に仕舞ったままだ。
水樹くんが嘘をついているなんて思いたくないけど、やっぱり聞けない。
『ブー、ブー、ブー』
あの軽快な音楽じゃない、マナーモードが蝉の合唱に交じって聞こえる。
起き上がって机の上にひとつだけ置かれている、わたしの白いスマートフォン。
電話で、相手は奥村だった。
夏休みに入って、すぐだった。
わたしが奥村に、「友達から始めても良い?」と返事をしたのは。
それからすぐにアドレス・電話番号・ラインを交換した。
何度も遊びに誘われているけど、その度にわたしは断ってきた。
心の中に、奥村ではないあの人の存在があるから。