夏の日、僕は君の運命を変える
柏ユメのサイン会。
行けるのは嬉しいけど、少し物足りない。
心の中に、ぽっかり穴が開いているような感覚。
“誰かの心を埋められて、癒せるような子に”
そんな意味を込めて名付けられた、わたしの名前・心。
自分の心も埋められていないなんて、名前負けして申し訳ない。
『ピー、ピー、ピー』
苦笑していると、聞いたことのない音が聞こえる。
わたしのスマートフォンからではない。
わたしの部屋にある音を発する機械は、水樹くんの黒いスマートフォンしかない。
いつも軽快な音楽しか鳴らなかったスマートフォンが、何で?
久しぶりに鞄の中から取り出したわたしは、真っ暗な画面に表示された文字に思わず声にならない悲鳴を上げてしまった。
【充電してください】
充電?
…そういえば、水樹くんはこのスマートフォンを落とした日、充電残量が10%だったと言っていた。
でも今の今まで使えていたし、充電もしなかった。
それが何で、今更?
わたしは部屋にある自分のスマートフォンの充電器を取り出し、刺そうとしたが、充電器の先っぽが刺さらない。
横に蓋があり、その中だと思ったのだけど、違うのかな。
でも他に充電器が刺せそうな場所はないし。
水樹くんに聞きたくても、こっちから触ってもビクともしないから聞けない。
『もしもし?』
「あ、希和!今暇?どこにいる?」
『今家で漫画読んでいたよ?どうしたのそんなに焦って』
「希和のスマホって、確かわたしのと充電器違ったよね」
『そうだけど?』
「貸してもらっても良い?今すぐ行くから!」
『え?どういうこと?』
「理由は後で!ともかく行くね!」
わたしは家の外に停めてある、滅多に乗らない自転車に乗り込み、眩しい太陽の下駅に向かって自転車をこいだ。
駅の駐輪場に自転車を停め、電車に乗り希和の家を目指した。