夏の日、僕は君の運命を変える
持っていたスマートフォンは、事故で壊れてしまっていた。
そのため、新しい黒いスマートフォンを買ってもらった。
目覚めて退院して家に帰ってスマートフォンを買いに行ってと、慌ただしい日を過ごしていると、来客があった。
「よ、奥村。俺のこと覚えているか?」
「…覚えていないです…」
「敬語使うなって。
ま、無理もないよな。
俺は太田って呼ばれていたんだ」
「太田…」
「奥村とは高校1年生の時に同じクラスで会ったんだ。
太田と奥村で出席番号も近かったからな。
同じバスケ部にも入っていたんだぞ」
「バスケ部…?」
「今日はその時の写真、持ってきたぞ」
写真に写っていたのは、記憶にない高校生の時の僕。
太田は僕以外にも、マネージャーの筧希和さんや先輩の宍戸勝志さんのことを教えてくれた。
「ね、僕と仲良かったんだよね」
「ああ」
「僕、柏ユメ好きだった?」
「柏ユメって、小説家の?
さぁ…本は好きじゃねぇって言ってたぜ。
国語も結構毎度四苦八苦していたみたいだし」
「……」
「でも2年の夏休み前のテストで、お前いきなり良い点数取ったんだぞ」
「え?苦手だったんじゃ」
「そのはずなんだけどな?頑張ったんじゃね?」
苦手だと言っていたはずの国語がいきなり点数高くなり、
本は好きじゃないと言っていたはずなのに、小説家のサイン会のチケットを持っている。
…同じ僕なのだろうけど、全く行動がわからない。
「そういえば、進学とかするのか?」
「……どうしよう。
僕、どんな関係に進みたいとか言ってた?」
「さぁ、そういう話はまったく。
でも理系だったし、そっちの方面だったんじゃねぇの?」
「…今は、正直進路どころじゃないんだ。
でも、早めに決めた方が良いよね」
「焦るなよ?」
「ありがとう」
太田から大学のパンフレットを数冊貰い、机の上に置いておく。
同時に目に入った、柏ユメのサイン会チケット。
本が苦手だと言っていたはずなのに、どうして。
僕は一体、何をしていた?