夏の日、僕は君の運命を変える
第12章 31年4月25日
自分のことがよくわからなくて、記憶が一切戻らないまま数ヶ月。
僕は自宅から近い大学の文学部に進学した。
太田が言うように、僕は確かに理系だったらしい。
机の中に隠されていたテストの点数は理系の方が高かったし、問題を見ても理系の方が良くわかった。
だけど僕は同じ大学の理学部ではなく、文学部に進学した。
僕は受験勉強と並行し、本を読んだ。
特に、柏ユメの小説を全て購入し読破した。
最初は活字ばかりで眠くなったけど、読み進めていくうちに面白さに気付いて。
今では立派な柏ユメのファンだ。
それに母さんが集めていたという本を読破し、本に関わる仕事に就きたいと考え始め、文学部への進学を希望したのだ。
「あれ、充電が」
残り10%と表示されている黒いスマートフォン。
でも早く行かないと講義に間に合わない。
充電器は文学部で知り合った友達に借りれば良いや、と僕は家を出た。
「よ、水樹」
「おはよう。…って時間じゃないか」
「相変わらずどっか抜けているよな」
記憶を失う前の僕は下の名前が好きじゃなかったらしい。
『女の子っぽいじゃん』と言っていたようだ。
だから僕を知る大体の人は「奥村」と呼んでいたけど、今の僕は春田だから。
この際だし、下の名前で呼ばれるようになった。
「充電器貸してくれる?残りが10%で」
「ほらよ」
「ありがとう。……あれ!?」
ポケットに仕舞ってあったはずのスマートフォンがない。
ポケットを全部漁っても鞄を漁ってもスマートフォンは出て来ない。
家から持ってきたのは記憶にあるから、きっと落としたんだ。
講義の最後に提出するレポートを、学食を奢る代わりにお願いし、僕はスマートフォンを探しに大学を出た。