夏の日、僕は君の運命を変える
第17章 31年7月23日
今日は待ちに待った、心ちゃんとの出掛ける日。
電話越しでも、一緒に出掛るんだ。
浮き上がっていると思われない、でも気に入った服を見繕い、リビングへ行く。
「水樹、出掛けるのか」
「うん。お父さんは仕事午後からだっけ」
「ああ」
「頑張ってね」
「…水樹、最近楽しそうだな」
「え?」
「落ち込んでいると言うか、塞ぎこんだり自分の殻に閉じこもっているような顔が多かったが、最近ではよく笑うようになったな。
彼女でも出来たのか」
「で、出来ていないよ」
父の言う通り、記憶がないと自分自身が空っぽに思えて、何もやる気が起きなくて。
アルバイトがない日は1日中部屋でぼーっとしていることが多かった。
最近楽しくなったのは、スマートフォンが時空を越えたから。
でもそんなこと父に言っても信じてもらえないだろうから、テキトーにごまかして家を出ることにした。
10時に駅前。
何だか引っ掛かりを覚えながら、待ち合わせ場所の駅へと向かう。
途中信号で止まった僕は、そっとこめかみの辺りを指で叩いた。
駅まで行く途中にある、土木沢交差点。
ここで僕は3年前事故に合い、記憶を失った。
だからなのかもしれない。
信号待ちをしたり、通る度、少しだけ頭が痛い。
出来る限り通りたくなかったけど…しょうがない。
何事もなく、交差点を通り過ぎる。
信号を渡り終わった時見えた、花束。
僕が合った事故の時、そういえばひとり命を落としている。
その人のために、あの花は捧げられているのだろう。
下手したら、死んでいたのは僕かもしれない。
その人は、僕の命と引き換えに亡くなったのかもしれない。
だから僕は生きなくちゃいけない。
命を無駄にしないためにも。