夏の日、僕は君の運命を変える
駅前に着き、心ちゃんに電話をかける。
まずは無難に天気の話からして、次に夏休みの話を聞く。
大学で夏休みにこの間入ったけどバイト三昧なことを言ったら、どうしてそんなにバイトをするのか聞かれた。
生きるため、とかっこつけたけど正確に言うならふたつある。
ひとつは心ちゃんにも言ったけど、本を買うため。
本好きじゃなかった僕が、柏ユメのチケットを何故持っていたのか知るためには、本を読む必要がある。
今もその理由はわかっていないけど、読み進めていけばきっとわかる気がして読んでいる。
柏ユメ以外にも、多くの著名作家からマイナー作家まで幅広く読むようにしている。
母が生前出版社で働きどんな作者がどんな本を書いているのかまとめている紙があったので、参考にしてもらっている。
もうひとつ、心ちゃんに言っていない理由。
少しでも父の経済的負担を減らしたいから。
父は生活費から食費まで出してくれているけど、何だか素直に甘えられなくて。
出来る限り父への負担を消し去ってあげたくて、せめて学費だけでも払えるよう頑張っている。
アルバイト代じゃ父のお給料には到底届かないけど、少しでも多く働いて少しでも僕と言う存在によって積み重なってしまう荷物を取り除いてあげたい。
心ちゃんに言わなかったのは、恥ずかしさと、それを話すには記憶を失ったことを話すことになってしまうから。
あまり記憶がないことは公にしたくない。
言うのは駄目だと、僕の中で誰かが叫んでいるから。
僕らは行き先を決めていなかったので、そこで決める。
僕が柏ユメの最新刊を持っていることを話したら、心ちゃんが欲しいと言いだして。
それを買いに行くことになった。
最短距離を心ちゃんに検索してもらい、同じ道を歩く。
これってもしかして、お出掛けじゃなくてデートかな。
そう思ったけど、言わないでおくことにした。
これは僕だけの秘密にしたいから。