夏の日、僕は君の運命を変える
第2章 28年6月6日
月日の流れるのは早い。
春田さんのスマートフォンを拾い1週間が経ったと思っていたのに、もうその日から1ヶ月も経った。
制服も冬服のブレザータイプから、夏服のベストタイプに変わった。
「希和」
「あー心ありがとう!助かったよー!」
「わたしなんかで良いの?」
「心だから頼んだんだよ!」
何事もなく、ただいつも通り過ごした放課後。
わたしはバスケ部の部室に顔を見せた。
理由は放課後やることもなく暇だったし、希和に頼まれたから。
「じゃこれ拭いてくれる?」
「了解」
希和から受け取ったのはバスケ部に必要なバスケットボール。
タオルを受け取り、わたしはひとつひとつバスケットボールを拭き始めた。
本来バスケ部には希和を含めたふたりのマネージャーがいる。
いつもは希和と後輩マネージャーで、バスケ部が休みの日に拭くのだけど、今日彼女が風邪で欠席で。
希和ひとりで大量のボールを拭くのが大変だというので、わたしが助っ人に呼ばれたというわけだ。
「心がいてくれて助かったよー」
「わたしなんかで役に立つのなら、何だって言って」
「ありがと!」
他愛もない話をしながら、梅雨時でなんとなくジメッとした部室でボールを拭いていると、「そういえば」と希和が思い出したように聞いてきた。
「あのスマホどうなったの?」
「え?」
「前に心が持っていた黒いスマートフォン。
持ち主って見つかったの?」
「……あぁ、あれね」
わたしの手元にあるよ、とは言い辛かった。
言えば理由を聞かれるとわかったから。
3年後の人が持っているスマートフォンだから警察に渡せないの、なんて言えない。
言っても良いけど信じてもらえず、頭の変な人だと思われてしまう。
春田さんのことは黙っておこう…。
「まだ見つかっていないみたいで、わたしの手元にあるの」
「そうなの?でもそういうのって警察で持っていてくれないの?」
「そうなのかな。でも持っているよう言われたから…」
話をでっちあげてしまったことに罪悪感を覚えるけど、これで通すことにした。
わたしは鞄の中に仕舞ってある春田さんのスマートフォンを取り出した。
「ほら」
「画面真っ暗だね。つかないの?」
「電源が切れているんだよ。充電していないし」
「ふーん。そうだ、写メらせてよ」
「どうして」
「お父さんに見せてみる。何の機種か気になるじゃない!」
「だ、駄目だよ!」
思わず声を出してしまう。
希和が言っていたので春田さんに聞いてみた所、このスマートフォンは3年後に新発売されたらしい。
つまり、3年前の今この現代にはないということだ。
「え?どうして?」
「それは……」
春田さんのことは内緒にしておく、というのをさっき決めたばかり。
わたしは希和の質問に、しどろもどろになっていた。