夏の日、僕は君の運命を変える
僕がショッピングモールに着いた頃、心ちゃんも無事ショッピングモールに到着した。
いるはずないとわかっていても、僕は無意識に辺りを見渡してしまう。
もしかしたら黒い僕のスマートフォンを耳に当てた、三つ編みの彼女がいるのではないか、と。
やっぱりいない…と落ち込んでしまっている僕は、何なのだろうか。
地図見ないと本屋に辿り着けないと言う心ちゃんを口だけで案内し、柏ユメの本置き場を教えてあげる。
僕が買ったばかりの最新刊が山積みになっているのを見ていると、心ちゃんが『……あれ?』と疑問を口にした。
『水樹くん。
水樹くんの所で柏ユメの新作が出たんでしょ』
「そうだけど?……あっ!」
『わたしの所で出るわけないじゃない!』
「そうだった…。
3年前はまだ出ていないんだ…」
『どうりで柏ユメのブログをよくチェックしているわたしが知らないと思った…』
「ごめん…今の今まで気付かなくて」
『ううん、わたしも気付かなかったからおあいこだよ』
「こうやって毎日のように電話していると、3年の差があること忘れるよ」
僕にとっての3年間は、殆ど空白なのに、確かに心ちゃんとの間に存在する時間。
時間だけは平等だと誰かが言っていたけど、違う時もあるみたいだ。
少し寂しくなっていると、心ちゃんがふっと吹き出した。
『わたし、3年後とか言っているから変な目で見られちゃったよ』
僕も辺りを見渡していると、確かに僕を見ている人がいて、目が合うと逸らして急いで行ってしまう人が多かった。
「偶然。僕もさっきから見られてる」
『でも本当、3年の時間差を忘れちゃうな』
「時間に誤差はあるけど、生活リズムとかは一緒だからね。
心ちゃんが僕と同じ31年を生きていると錯覚するよ」
『普通に電話出来ているものね』
近くも遠くもない、中途半端な3年。
この時間の距離を、僕らは埋めることが出来るのだろうか。
でも、もし埋めることが出来たのなら、この“特別な関係”は終わってしまうのかな。
それぞれ自分の道を歩むことになるのかな。
それは……少し、寂しいかな。