夏の日、僕は君の運命を変える
『え……水樹くん?』
「……あー、ごめん。それは…無理、かな」
『どうして?』
「ちょっと色々理由があって…」
『理由って?』
「……ごめん。無理なものは…無理、なんだ」
『…そっか。わかった。
ごめんね、変なことさっきから聞いちゃって』
『あ、えっと…謝らないで。僕にも責任あるんだし』
たまに太田が高校時代と同じよう、僕を奥村と呼ぶ。
だけどそう呼ばれ、1回で振り返ったことはない。
奥村水樹としての記憶はない、彼はただの他人だし、僕は春田水樹だ。
奥村水樹なんて人、知らない。
話しているうちに、僕は心ちゃんのメールアドレスを知らなかったことを思い出した。
アドレスとラインのIDを聞き、1回通話を切って登録しておくって見るも、宛先不明で返ってくるメールとメッセージ。
表示されたそれに、寂しさを覚えてしまう。
僕らの間には、やっぱり短くて遠い壁があるのだ。
でも手帳に書いた心ちゃんのメールアドレスとIDは、大切に取っておくことにした。
いつかまた僕が君を忘れてしまっても、君がいた事実を思い出せるように。
君と話し、笑った“今”を大切に出来るように。