夏の日、僕は君の運命を変える






『ふたりこそどうしてここにいるの』



冷静な心ちゃんの声。

いつもは柔らかい声音なのに、こんな冷静な心ちゃんの声は初めてだ。




『じゃあ手繋ぐことないよね』



断片的にしか聞こえて来ない。

だけど、聞こえた気がした。

“どうして”と、今にも泣きそうな声が。



『…噂に聞いていたんだ。ふたりが仲良いってこと』



誰かと話していて、相手の声は聞こえない。



『そんなことを希和が知る必要はない』



ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。

きわ。

そんなに聞かない、珍しい名前。

心ちゃんは確かに、きわと言った。

きわ…希和。

筧さんの名前は、希和。

ただの偶然?




『ねぇかっちゃん、希和と付き合っているの』



かっちゃん、きわ。

かっちゃん。

かつて太田が宍戸先輩を、そう笑いながら呼んだ。

宍戸先輩は何故か寂しそうにしながら「そう呼ばないで」と言っていた。

いつも笑顔で場を明るくさせる筧さんも、「そう呼ばないで上げて、勝志のこと」と辛そうに言っていた。

3人はその後僕を見て、また別の話を、何事もなかったかのように話し出した。



『ねえっ!答えなさいよっ!!』



心ちゃんの切り裂くような悲鳴に似た叫び声で、我に返る。



『希和は知っていたはずだよね!?
わたしがずっと、ずーっとかっちゃんに片思いしていたこと。
希和、応援してあげるって言ってくれたよね!?』



泣いている。



『どうして付き合っているの!
わたしの気持ちを知りながら、どうして!』



心ちゃんは、泣いている。

僕はそっと目を閉じ、何も考えないでその後の心ちゃんの声を聞いた。







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