夏の日、僕は君の運命を変える
今何か声をかけたって、聞こえていない。
心ちゃんには心ちゃんの世界がある。
僕が知らない世界が。
「あれ?春田?」
「……筧さん?」
手に大量の紙袋を持った筧さんが僕を見て目を見開いていた。
持っている紙袋に書かれた店名は、口コミでも評判の良かったお店だ。
さすが筧さん、情報が早い。
「どうしたのこんな所で。って電話中?」
「…聞いても良いかな」
「何改まって」
「……宍戸先輩は、どうしてかっちゃんって呼ばれちゃいけないの」
「……」
にこにこ笑っていた筧さんの顔が歪む。
聞いてはいけないことだった。
筧さんと宍戸先輩と、「ごめんかっちゃんって呼んで」と謝っていた太田の隠し事。
「もしかして…以前宍戸先輩をかっちゃんって呼んだ人が…」
「ごめん春田!あたし勝志待たせているから行くね!」
「筧さっ……」
「春田、ひとつ忠告してあげる。
知らない方が良い事実ってのもあるんだよ」
誰かの言葉を引用したような、筧さんの言葉は、ストンと胸の中に落ちる。
知らない方が良い事実。
それは…僕の今も戻らない記憶のことを言っているの?
「……奥村水樹って、一体どんな人だったんだろう…」
知りたい。
お前のことが今すぐ知りたい。