きらら荘の恋模様(仮)
船に乗り込むと先生は慣れた手つきで船を操縦し始めた。

「ここから少し離れたとこで船を止めるから、船酔いってしないよな?今更だけど」

「あ、それは大丈夫です。」

私は先生が買ってくれた小説を取り出し、船が止まるまでボーっと先生の背中と海を目で行ったり来たりしていた。

この状況は、とてつもなく嬉しい。顔が火照っているのが分かる。
頬がゆるい、にやけてる。はぁ・・・自分キモイ。

海岸から20分ほど離れた時、先生はエンジンを止め。
ポケットからメモとペンを取り出しぼんやり海を見つめだした。

・・・今からはしゃべりかけたらいけない時間だなと、
馬鹿な私でもその空気には気づき小説の1ページ目を開いた。




1時間ほどして、先生が私を見ている事に気づき本から顔をあげる
「どうしました?先生が船酔いですか?」
本に集中しすぎて見られている事に気づかなかった・・・
いつから見られていたのだろ。考えるほど顔が熱くなる。恥ずかしい・・・

「や、もう俺は用が済んだ。3時間はここに居る覚悟だったけど、もう大丈夫だ。充分プロット作成はできた。」

「よかったです、では戻りますか?」

「そうだな・・・」と先生は船のエンジンをかけた。
私は本にしおりを挟みカバンの中にしまった。

海を見ていると
「ふみは恋人とかいなかったのか?」
と先生がいきなり突拍子もない質問をしてきた。

「え?!・・いや、いませんでしたけど・・・」

「そうか、珍しいなルックスはいい方だろうに。
まぁ恋人がいなかったならこの引越しもそこまで心苦しくなかったか。」

先生はスラッと、そんな事を言うから

「そうですね、恋人が居なかったから心おきなく引越しして来れました。
そのおかげで一ノ瀬先生にも出会えましたしね。」

私も仕返し!と思って恥ずかしながら発した台詞には
「そうだな」の一言で返されてしまった。

なんだんだよ、大人の余裕か?高校生にはこんな会話刺激が強いよ!
と言いたくても言えないから心の中に閉じ込めた。

「今日は付き合ってくれてありがとうな。また、頼むよ」

「私でよければ・・喜んでです!」

「あぁ、一人で行っても虚しいしな」

そんな会話をしてる内に停留所に着いてしまった。
あーぁ、たった1時間半のデート終了。

「あ、ふみ。俺ちょっと寄るところあるから、ここで。じゃ」

と先生はきらら荘と真逆に歩いて行った。
なんなんだよ、もー。淋しいじゃんか。と思いなが一人できらら荘に戻った。

ガラガラ
「ただいまです。」

「あ、ふみちゃんどこ行ってたの?先生もいないし。」
と、まさに今風呂から上がりました風の半裸で髪の毛が濡れているそらむさんと遭遇した。

「・・・そ!そらむさん!服着てから廊下に出てくださいよ!」

「あぁ、ごめんね。で、先生知らない?俺暇だから相手してって言うてたのに朝から部屋にいないんだよー。」

・・・あれ。そうなんだ、なんでそらむさんではなく、私を誘ってくれたんだろう。
って、たまたまだよね。そらむさんと船乗ってもうるさそうだもんね。
だからだ、それ以外ありえない。

そう言い聞かせ靴を脱ぎ、何か騒いでるそらむさんを無視して部屋に戻った。









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