【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
 到着した侍女や女官らに囲まれて砂遊びをしているアオイ。
 彼女なりに採掘の手伝いをしているらしいことは誰の目にも明らかだったが、アオイを始め他の者たちにも真新しい発見はなく一日を終えようとしていた。
 わずかに発掘された出土品を修復士が復元の魔法を駆使しながら形を整えていく。

「……もう間もなく夕暮れか……」

 美しい銀の髪を高く結ったキュリオは、真っ白な手袋をしながら復元の済んだ花瓶らしきものを手に呟いた。
 さらに絹糸のような髪が黄昏色に染まる頃、傍で採掘に汗を流していたアオイが清々しい笑顔でキュリオの裾をひく。
 
「へへっ」

 土で汚れた手と顔で満面の笑みを向けてくるアオイを抱き上げようとして、自分が手袋をしていることに気づく。

「お疲れ様、アオイ。見事な働きぶりだったね」

 手袋を外して頭を撫でてやりながら小さな体を抱き上げる。
 発掘を頑張ったアオイによって自身の衣が汚れようとも、キュリオはまったく気にしない。褒められたアオイは嬉しそうに首元へ抱き着き、キュリオの胸に抱かれるこの夕暮れは一日の終わりが近いことをずっと前からアオイはきちんと認識している。
 
「うん? 頬が赤いね。すこし日に焼けてしまったかな?」

 色白のアオイの肌が傷つかないようにと侍女らは日傘を手にアオイを取り囲んでいたが、幼子が元気に動き回るのは致し方がない。そう言うキュリオは真昼の日の下にいたにも関わらず、陶器のように真白い肌には何の変化もなく美しいままだ。

「今夜は城へ戻らず宿へ泊まろうと思っているが、それでもいいかい?」

「えっ!? キュリオ様とアオイ様がですかっっ!? も、もちろんでございますっっ!!」

 その場に居た誰もがキュリオを振り返り、驚きの声を上げながら激しく頷いたが……
 キュリオが承諾を得ようとしていた相手はアオイだった。 
 
「……?」

 周りで騒ぐ大人たちと、なにやら同意を求めてくる美しい父親。アオイは周りを見渡しながら、やがてキュリオの瞳へ行きつくと、わかったようなわからないような表情のまま頷いて。

「ふふっ、アオイがわからない言葉を並べてしまったな。ありがとう。今夜は一緒に行きたい場所があるんだ」

 昨夜よりも一層盛大な歓迎を受けたキュリオ一行だが、なによりも壮大だったのは滞在先のバルコニーから癒しの光で大地を覆いつくしたキュリオの圧倒的な力だ。
 城の従者ならば時折目にすることも可能だが、悠久の民にとって毎夜我が身に降り注ぐ有難い癒しの光が目の前で放たれるその光景は言葉では言い表せないほど荘厳だった。

「……!」

 キュリオの片腕に抱かれ、今夜も特等席でその光景を見つめていたアオイの瞳に不思議なものが映った。
 風よりも速く美しく、大地を駆け巡る癒しの光が視線の先にあるあの川の上を通過したとき、蜃気楼のように浮かぶ霧の中で古城が姿を現したのだ。

 瞬きを繰り返し、キュリオの胸元を強く握りしめ身を乗り出したアオイに銀髪の王の視線が下りてきた。

「アオイ?」

 光に包まれたふたりの髪を穏やかな風が舞い上がらせる。
 名を呼ばれたアオイがキュリオを見上げると、丸みのある愛らしい指先が遠くを指し示した――。
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