【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

突如やってきた異変

 初代王が現れてから日は流れ――。
 異変は突如やってきた。

 悠久の国において第二位の地位を持つ、現悠久の王キュリオの愛娘のアオイは三歳になろうとしていた。

 キュリオの溺れるほどの愛を全身に受けながら健やかに育ったアオイは、心優しく誰からも愛し、愛されるまさに天使のような存在になっていた。

 この日もアレスやカイと仲良く遊んでいたアオイの姿を優しく見守るキュリオがいる。

「あまり遠くへは行かないように。わかったね?」

 アオイの大きな瞳に宿る輝きは、これから兄と妹のように育ったふたりの少年と出発する小さな冒険に向けられた大きな期待によるものであることをキュリオは理解していた。

「はいっ!」

「はい!!」

「あいっ」

「行きましょう! アオイ姫様!」

「うんっ」

 両手をアレスとカイに引かれ、弾けるような満面の笑みで駆けていくアオイ。
 最近では服の好みも出てきたようで、彼女はよく膝丈のワンピースを好んで着ているようだ。
 もうキュリオの腕の中で一日を過ごしていた彼女の姿はなく、日の光の下で元気に駆け回るアオイは年頃の子供たちとなんら変わらぬ日常を送っていた。

「ふふっ、子供の成長は早いな。瞬きをするたびに大きくなっている気がするよ」

(つい先日まではこの腕の中に居たというのに)

 アオイの健やかな成長を喜びながらも、寂しさが拭えないキュリオは静かに目を閉じると執務室へと続く廊下を歩きはじめた。

「キュリオ様、お待ちしておりました。今日の執務もなかなかの量ですじゃ!」

「ああ、ガーラント。子供は遊ぶのが仕事だが、私たちには私たちのやるべきことがある」

「そういえば……キュリオ様のお子様時代のお話を伺ったことがありませんでしたな!」

 書類の山から顔を覗かせたガーラントが好奇心の塊を全面に押し出しながら身を乗り出してくる。

「そうだな。この仕事が片付いたらすこし話をしようか」

 五百年以上を生きるキュリオの幼少期時代を知る人物は、もうこの世にはいない。
 そして当の本人でさえ忘れてしまうほどに遠い過去だが、決して忘れていないのは、<先代王>との記憶が深く結びついているからだ。

 瞼を閉じれば鮮明な彼の姿を今でも思い描ける。
 キュリオが唯一無二の敬愛する偉大な<先代王>の名はセシエル。誰よりも気高く美しい、瞳に若葉の色を宿した王だった。


(セシエル様を生涯忘れることはない。いつかまた……御逢いできるだろうか……)


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