【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
 昼食の時間になるとちゃんと戻ってきた子供たち。それでも共に食事を取ることが許されていないため、アレスとカイは別室へと下がっていった。
 アオイは花々に囲まれた中庭の一角へと用意された子供用の小高く設置された椅子へと座らせられると、父親であるキュリオを待つまで侍女らが話し相手になっていた。

「まあ美しい花冠に腕輪! 姫様によくお似合いですわっ」

「へへっ」

 嬉しそうに笑ったアオイは侍女らがよく見えるように腕を差し出している。

「よい香りがすると思ったらアオイが居たのだな。冒険は楽しかったかい?」

「おとうちゃまっ」

 アオイの瞳がキュリオを捉えると、嬉しそうに両手を広げたアオイを一度愛おしそうに抱きしめてから向かい合わせによ用意された自身の椅子を手繰り寄せ、アオイの隣へ移動させたキュリオは人目も憚(はばか)らず娘の頬へと唇を押し当てる。
 よい香りのことを彼女の頂きや手首を飾る花のこととは言わず、アオイ自身を示したのはキュリオらしいと言えようか。 
 
 アオイは頭上の花冠と手首の腕輪を指さしながらアレスとカイが作ってくれたのだと眩しいばかりの笑顔で教えてくれる。

「そうか。だが、食事中にそれらを纏っていては食べにくいだろう?」

 優しく諭しながら、それらをそっとテーブルの端へと追いやったキュリオたちの前には次々と食事が運ばれてくる。

「…………」

 侍女らと違って、キュリオはそれほど褒めてくれないことにアオイは少し疑問に思いながら、手の届かないところに置かれてしまった花の飾りを静かに見つめる。

「さあアオイ。お腹がすいただろう」

 短めの握りやすい子供用のフォークを女官に手渡されたアオイが目の前のフルーツに手を伸ばすと、行く手を阻むようにキュリオの手がフルーツに伸びてアオイの唇の前に差し出した。

「……」

 ここからどうすればよいかはもうわかっている。
 花びらのような可愛らしい唇が小さく開かれると、スムーズに入ってきたフルーツは甘く蕩けるようにアオイの口内へと広がった。
 瑞々しい果実の密がアオイの口の端から一筋流れると、親指でそれを拭ったキュリオはその指先を己の唇へ運んだ。

「ふふっ、お前が私のもとに来てからこの一帯に成る果実たちがとても甘くなった」

 それは悠久の王たるキュリオの心が甘くなった影響だろうと、その場に待機している女官や侍女らは思った。
 大地に降り注ぐ王の力は至る所に影響し、特に王宮の庭で育てられた花々や果実は彼の間近に生息しているため恩恵を受けやすい。

「これほど大きな愛に当てられては果実たちも甘くなりましょう」

 女官の薄く紅をひいた艶やかな唇が優し気に弧を描く。言われたキュリオはアオイから目を離さず「そうだな」と自嘲気味に笑った。

「……?」

 キュリオが食事を始めると、今度こそ自分で食べようとフォークを伸ばすと再び遮られてしまう。
 何でもひとりでやってみたいお年頃のアオイには少しの不満があったが、娘の小さな心の変化に気づかないほどキュリオの愛情は浅くない。

「まだまだお前を甘やかしたい私の心に免じて許しておくれ」

 本当は膝にのせて食事したいほどの気持ちがキュリオにはあるが、万が一自分が同じ席につけない場合、アオイが食事を受け付けなくなっては大変だと憂慮したのだ。
 だが、その心を周りに聞かせれば、「それは今でも同じことだろう」と言われたに違いない。そのあたりは疎いキュリオであった。


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