【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「僕、ラビットと話してみる」
アオイから目を離さないキュリオにそう告げたダルドは、銀縁のソファから立ち上がって女官や侍女らに囲まれながらラビットと戯れているアオイのもとへと向かった。
「ダルド殿は元銀狐でありましたな。獣と言葉を交わせる彼ならばラビットから何か聞き出せるかもしれませぬ」
「……そうだな」
抑揚のないキュリオの返事が意味するものを感じとったガーラントもまた内心同じ意見だった。
(ラビットが見て感じたものを言葉にしたとて、アオイ姫様の異様な能力の解明には繋がらんじゃろう。手掛かりがあるとすれば……うーむ……)
過去の見聞からはそのような能力者が存在したという記録は一切なく、手掛かりを探そうにも心当たりがないのだ。
そればかりではない。もしかしたら、この幼い姫君が悠久の国において初めてのタイプの<魔導師>になるかもしれないのだ。
(しかし、喜ばしいことかどうか……キュリオ様の御心は穏やかではないはずじゃ)
表情変わらぬキュリオの顔を見ているだけで、彼の心が痛いほど伝わってくる。
それぞれが複雑な思いを胸に秘めながら次の一手を考えていると、アオイのもとへやってきたダルドが彼女の傍に腰をおろした。
「アオイ姫、なにして遊んでいるの? 僕もまぜて」
「ダルドちゃま! うんっ」
侍女が着させてくれたであろう、ラビットの耳を模したフードが愛らしいつなぎの衣を身に纏ったアオイは真ん丸の瞳をキラキラさせてラビットを抱きしめていた。
「ラビ、かあいいねっ」
抱いたラビットをダルドに見せるようにして、彼になでなでをせがむ。
自分よりも小さな存在を初めて胸に抱いたアオイは、このラビットが可愛くてしょうがないようだ。
「アオイ姫が助けた命だ。僕もこのラビットが可愛いよ」
彼女と向き合うようにしてラビットのぬくもりを手のひらに感じながら幾度となく撫でてみる。細やかな柔らかい真っ白な毛に指先が埋もれると、その下にあるラビットの体温が直に伝わってきて指先がじんわりあたたかくなる。
ダルドの手が小さな背を行き来すると、ラビットの赤い瞳が気持ちよさそうにゆっくり閉じていく。
「かあいい……」
幼いながらにも母性がアオイの中に芽生えているのかもしれない。
小さな命を慈しむ愛が、その無邪気で清らかな瞳からあふれて煌めいている。
「うん。アオイ姫も可愛いよ」
ラビットを撫でていたダルドの手はいつの間にかアオイの頬を撫でており、危うく本来の目的を忘れて彼女を永遠に愛でてしまいそうになる。
すると――
「おや? 可愛いラビットがここにも……私の娘はどこかな?」
「おとうちゃまっ」
アオイの隣に片膝をついたキュリオがラビットごとアオイを抱き上げた。
「ダルドはその子とお話があるそうだ。アオイは私とこの子の食事を用意してあげよう。いいね?」
「お、はなし?」
アオイはキュリオの言葉を聞いてラビットとダルドの顔を交互に見比べている。
手放すのが寂しいのか、ほんの少し躊躇ってからダルドにラビットを託す。
「ありがとうアオイ姫。またあとで遊ぼう」
「うんっ」
アオイはキュリオに抱かれたまま広間から退出するまで、健気にダルドとラビットへ手を振り続けていた――。
アオイから目を離さないキュリオにそう告げたダルドは、銀縁のソファから立ち上がって女官や侍女らに囲まれながらラビットと戯れているアオイのもとへと向かった。
「ダルド殿は元銀狐でありましたな。獣と言葉を交わせる彼ならばラビットから何か聞き出せるかもしれませぬ」
「……そうだな」
抑揚のないキュリオの返事が意味するものを感じとったガーラントもまた内心同じ意見だった。
(ラビットが見て感じたものを言葉にしたとて、アオイ姫様の異様な能力の解明には繋がらんじゃろう。手掛かりがあるとすれば……うーむ……)
過去の見聞からはそのような能力者が存在したという記録は一切なく、手掛かりを探そうにも心当たりがないのだ。
そればかりではない。もしかしたら、この幼い姫君が悠久の国において初めてのタイプの<魔導師>になるかもしれないのだ。
(しかし、喜ばしいことかどうか……キュリオ様の御心は穏やかではないはずじゃ)
表情変わらぬキュリオの顔を見ているだけで、彼の心が痛いほど伝わってくる。
それぞれが複雑な思いを胸に秘めながら次の一手を考えていると、アオイのもとへやってきたダルドが彼女の傍に腰をおろした。
「アオイ姫、なにして遊んでいるの? 僕もまぜて」
「ダルドちゃま! うんっ」
侍女が着させてくれたであろう、ラビットの耳を模したフードが愛らしいつなぎの衣を身に纏ったアオイは真ん丸の瞳をキラキラさせてラビットを抱きしめていた。
「ラビ、かあいいねっ」
抱いたラビットをダルドに見せるようにして、彼になでなでをせがむ。
自分よりも小さな存在を初めて胸に抱いたアオイは、このラビットが可愛くてしょうがないようだ。
「アオイ姫が助けた命だ。僕もこのラビットが可愛いよ」
彼女と向き合うようにしてラビットのぬくもりを手のひらに感じながら幾度となく撫でてみる。細やかな柔らかい真っ白な毛に指先が埋もれると、その下にあるラビットの体温が直に伝わってきて指先がじんわりあたたかくなる。
ダルドの手が小さな背を行き来すると、ラビットの赤い瞳が気持ちよさそうにゆっくり閉じていく。
「かあいい……」
幼いながらにも母性がアオイの中に芽生えているのかもしれない。
小さな命を慈しむ愛が、その無邪気で清らかな瞳からあふれて煌めいている。
「うん。アオイ姫も可愛いよ」
ラビットを撫でていたダルドの手はいつの間にかアオイの頬を撫でており、危うく本来の目的を忘れて彼女を永遠に愛でてしまいそうになる。
すると――
「おや? 可愛いラビットがここにも……私の娘はどこかな?」
「おとうちゃまっ」
アオイの隣に片膝をついたキュリオがラビットごとアオイを抱き上げた。
「ダルドはその子とお話があるそうだ。アオイは私とこの子の食事を用意してあげよう。いいね?」
「お、はなし?」
アオイはキュリオの言葉を聞いてラビットとダルドの顔を交互に見比べている。
手放すのが寂しいのか、ほんの少し躊躇ってからダルドにラビットを託す。
「ありがとうアオイ姫。またあとで遊ぼう」
「うんっ」
アオイはキュリオに抱かれたまま広間から退出するまで、健気にダルドとラビットへ手を振り続けていた――。