【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
空が黄昏色に変化した始めた頃、アオイはキュリオに抱かれて庭へと向かっていた。
いつもよりゆったりとした足取りの父親を見上げると、自分の視線に気づいたキュリオの瞳がこちらに降りてくる。
「おにわ?」
行く先になにがあるかをアオイは知っているが、ラビットの食事は調理場で用意するものだと思っていた彼女は小動物のように愛らしく小首を傾げている。
「ふふっ、ラビットの食事をアオイは知らなかったかな。新鮮なニンジンをあげようと思ってね」
「ニンイン……?」
まだ幼いアオイは細かく刻まれたものが食事に出されているため、食べ物の原型をよく知らないのだ。
この年齢ならば、幼少期の学び舎で食育の第一歩に触れる時期なのかもしれない。
「そろそろ食育を始めてもよい頃合いなのかもしれないな。
ならば丁度いい機会だ。菜園で野菜を収穫してみようか」
「……?」
初めて聞く言葉を並べられると、きょとんとしてしまうアオイがたまらなく可愛い。
「お前が初めて経験することはすべて私が教えたい。
……だから、私が教えていないことは覚えなくていい。わかったね?」
「あいっ」
彼女が内容を把握していないにも関わらず、同意を求められると素直に頷いてしまうのはキュリオに全信頼を寄せているからである。
そしてキュリオもアオイが拒まないのをわかっているため、傍(はた)からは彼女の承諾を得ているようにみえるが……もはやこれはキュリオの決定事項……即ち命令なのだ。
「いい子だ。……ちょっと寄り道をしようか」
(そうだ。私が教えていない魔法など……不要)
――噴水の水飛沫が霧のように舞い、足元に薄い靄を広げるなかをキュリオは歩いていく。まるで雲の上を歩いているような美しい眺めにアオイは嬉しそうに笑顔を見せている。
やがて噴水の淵へ腰をおろしたキュリオはアオイを隣に立たせると、右手は彼女の柔らかな頬を包み、左手は小さな背中を支えるようにしながら優しく囁いた。
「アオイ、私の声が聞こえるね?」
「あい」
吐息が触れ合うほどに顔を近づけたキュリオの体からは光があふれる。
互いの瞳に映るものはお互いしかいない。
空色の瞳が聖なる光を受けて輝き、銀の長い髪が足元から吹き上げる微風に靡く。
そっと額と額を合わせたキュリオの輝きがアオイを包むころ、微睡むように目を閉じたアオイはまるで……キュリオの翼に抱かれているような心地よい不思議な感覚に陥っていた。
じんわりと交じり合う互いの熱。
額から伝わるアオイの高めの体温がキュリオの口角を緩く持ち上げ、……やがてそれは強く引き結ばれてキュリオの決意をより一層固いものへと変えていく。
「私の愛がお前を守ろう。過去も未来もすべて……永遠の愛を君に――」
(このぬくもり、決して手放したりはしない)
『君の怪我を癒してくれたのは、君をずっと抱いていた女の子?』
『ソウ。ココロヤサシキヒメ。モリノコエヲキクモノ。ヒメ……』
「……森の声を聞く者……?」
キュリオの封印術がアオイに施されているころ、ラビットと会話を始めたダルドは気になる言葉を耳にしていたのだった――。
いつもよりゆったりとした足取りの父親を見上げると、自分の視線に気づいたキュリオの瞳がこちらに降りてくる。
「おにわ?」
行く先になにがあるかをアオイは知っているが、ラビットの食事は調理場で用意するものだと思っていた彼女は小動物のように愛らしく小首を傾げている。
「ふふっ、ラビットの食事をアオイは知らなかったかな。新鮮なニンジンをあげようと思ってね」
「ニンイン……?」
まだ幼いアオイは細かく刻まれたものが食事に出されているため、食べ物の原型をよく知らないのだ。
この年齢ならば、幼少期の学び舎で食育の第一歩に触れる時期なのかもしれない。
「そろそろ食育を始めてもよい頃合いなのかもしれないな。
ならば丁度いい機会だ。菜園で野菜を収穫してみようか」
「……?」
初めて聞く言葉を並べられると、きょとんとしてしまうアオイがたまらなく可愛い。
「お前が初めて経験することはすべて私が教えたい。
……だから、私が教えていないことは覚えなくていい。わかったね?」
「あいっ」
彼女が内容を把握していないにも関わらず、同意を求められると素直に頷いてしまうのはキュリオに全信頼を寄せているからである。
そしてキュリオもアオイが拒まないのをわかっているため、傍(はた)からは彼女の承諾を得ているようにみえるが……もはやこれはキュリオの決定事項……即ち命令なのだ。
「いい子だ。……ちょっと寄り道をしようか」
(そうだ。私が教えていない魔法など……不要)
――噴水の水飛沫が霧のように舞い、足元に薄い靄を広げるなかをキュリオは歩いていく。まるで雲の上を歩いているような美しい眺めにアオイは嬉しそうに笑顔を見せている。
やがて噴水の淵へ腰をおろしたキュリオはアオイを隣に立たせると、右手は彼女の柔らかな頬を包み、左手は小さな背中を支えるようにしながら優しく囁いた。
「アオイ、私の声が聞こえるね?」
「あい」
吐息が触れ合うほどに顔を近づけたキュリオの体からは光があふれる。
互いの瞳に映るものはお互いしかいない。
空色の瞳が聖なる光を受けて輝き、銀の長い髪が足元から吹き上げる微風に靡く。
そっと額と額を合わせたキュリオの輝きがアオイを包むころ、微睡むように目を閉じたアオイはまるで……キュリオの翼に抱かれているような心地よい不思議な感覚に陥っていた。
じんわりと交じり合う互いの熱。
額から伝わるアオイの高めの体温がキュリオの口角を緩く持ち上げ、……やがてそれは強く引き結ばれてキュリオの決意をより一層固いものへと変えていく。
「私の愛がお前を守ろう。過去も未来もすべて……永遠の愛を君に――」
(このぬくもり、決して手放したりはしない)
『君の怪我を癒してくれたのは、君をずっと抱いていた女の子?』
『ソウ。ココロヤサシキヒメ。モリノコエヲキクモノ。ヒメ……』
「……森の声を聞く者……?」
キュリオの封印術がアオイに施されているころ、ラビットと会話を始めたダルドは気になる言葉を耳にしていたのだった――。