【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「……目を開けて、アオイ」
「……」
額が離れるとキュリオの慈しみに満ちた空色の瞳は穏やかな色を湛えてアオイを見つめていた。
「お前の歩む道を私も共に歩もう。お前が迷わないよういつも傍に――」
彼の背を覆う黄昏色の空にはいくつかの星が輝いて、まるでこれから歩む未来に待ち受けているかけがえのない出会いを暗示しているように見える。
「…………」
(過去も未来も……)
キュリオの導きの光は、きっとどんな闇のなかでもアオイを照らしてくれる。
自分にどのような過去があったかもわからないアオイだったが、キュリオと出会ってからの自分がすべてなのだ。
「あいっ」
神々しく美しい父親の言葉に満面の笑みで頷いたアオイ。
そんな彼女を抱きしめ、柔らかな髪の中へ鼻先を埋めたキュリオは自身の体にアオイを取り込むように深い呼吸を繰り返した。
「そろそろ行こうか。ニンジンの収穫へ」
キュリオの言葉を合図にアオイがその白い首へと腕を回すと、立ち上がった彼は今度こそ菜園へと向けて歩き出した。
庭の至るところには魔法により灯りがともされ、近くにある花々を浮きだたせるように煌めいて見る者の目を楽しませてくれる。
やがて庭を散策しながら辿り着いた菜園にはこの時分にもまだまだ人の姿がみられる。彼らの恰好を見る限り、この菜園に携わる者と料理人が多いようだ。
「さて、ニンジンはどこかな」
菜園の入り口に立つ眉目秀麗なキュリオはかなり目立つ。
暗がりのなかにありながら輝きを放つ彼に誰もが手を止め振り返った。
「……キュ、キュリオ様……っ!? アオイ様まで!!」
「……あの御方がっ……」
料理人らしき男の一声が菜園中に響き渡ると、それまで姿の見えなかった者たちまでが顔を覗かせ、あっという間に大量の人間が麗しの王と姫の前へ雪崩れ込んだ。
「……な、なぜこのような場所に!? 夕食のリクエストでございますかっ!?」
前にも聞いたセリフであるが、料理人である彼は以前にも調理場に現れたキュリオへ料理長のジルが言っていたことを覚えていたのであろう。
「君は……また会ったね。
食事のリクエストではないんだ。新鮮なニンジンをアオイと収穫しようと思ってね。どこに植えられているだろうか」
「……キュリオ様、私のことを覚えていてくださったのですねっ……」
多忙な日々を過ごす王がまさか自分の顔を覚えているとは……感激の涙でキュリオの美しい顔が歪んで見える。
「ああ、君の成長をジルがとても喜んでいた。もちろん私も同じ気持ちだよ」
真っ直ぐに自分を見つめる空色の瞳。料理人の青年とは似ても似つかない、美しく生まれながらに王の風格を持つキュリオ。
「あ、ありがたき御言葉……っ! アオイ姫様もようこそおいでくださいました! ささ、こちらでございます!」
袖口で涙を拭った彼は飛び切りの笑顔で行先を案内する。
「あいがとっ」
キュリオの代わりにアオイがお礼を言うと周りからは歓喜の歓声があがった。
「……アオイ姫様、大きくなられてっ……」
キュリオが皆を招集し、アオイへ祝福を贈ったあの日以来彼女を目にしていなかった者はたくさんおり、その立派な成長ぶりに再び喜びの声があがる。
こうして菜園を歩くキュリオとアオイの後ろを多くの人間がついてまわり、異様な光景となってしまったが、迷うことなく土にまみれる王と姫の姿はニンジンに負けずとても新鮮で楽しげであった――。
「……」
額が離れるとキュリオの慈しみに満ちた空色の瞳は穏やかな色を湛えてアオイを見つめていた。
「お前の歩む道を私も共に歩もう。お前が迷わないよういつも傍に――」
彼の背を覆う黄昏色の空にはいくつかの星が輝いて、まるでこれから歩む未来に待ち受けているかけがえのない出会いを暗示しているように見える。
「…………」
(過去も未来も……)
キュリオの導きの光は、きっとどんな闇のなかでもアオイを照らしてくれる。
自分にどのような過去があったかもわからないアオイだったが、キュリオと出会ってからの自分がすべてなのだ。
「あいっ」
神々しく美しい父親の言葉に満面の笑みで頷いたアオイ。
そんな彼女を抱きしめ、柔らかな髪の中へ鼻先を埋めたキュリオは自身の体にアオイを取り込むように深い呼吸を繰り返した。
「そろそろ行こうか。ニンジンの収穫へ」
キュリオの言葉を合図にアオイがその白い首へと腕を回すと、立ち上がった彼は今度こそ菜園へと向けて歩き出した。
庭の至るところには魔法により灯りがともされ、近くにある花々を浮きだたせるように煌めいて見る者の目を楽しませてくれる。
やがて庭を散策しながら辿り着いた菜園にはこの時分にもまだまだ人の姿がみられる。彼らの恰好を見る限り、この菜園に携わる者と料理人が多いようだ。
「さて、ニンジンはどこかな」
菜園の入り口に立つ眉目秀麗なキュリオはかなり目立つ。
暗がりのなかにありながら輝きを放つ彼に誰もが手を止め振り返った。
「……キュ、キュリオ様……っ!? アオイ様まで!!」
「……あの御方がっ……」
料理人らしき男の一声が菜園中に響き渡ると、それまで姿の見えなかった者たちまでが顔を覗かせ、あっという間に大量の人間が麗しの王と姫の前へ雪崩れ込んだ。
「……な、なぜこのような場所に!? 夕食のリクエストでございますかっ!?」
前にも聞いたセリフであるが、料理人である彼は以前にも調理場に現れたキュリオへ料理長のジルが言っていたことを覚えていたのであろう。
「君は……また会ったね。
食事のリクエストではないんだ。新鮮なニンジンをアオイと収穫しようと思ってね。どこに植えられているだろうか」
「……キュリオ様、私のことを覚えていてくださったのですねっ……」
多忙な日々を過ごす王がまさか自分の顔を覚えているとは……感激の涙でキュリオの美しい顔が歪んで見える。
「ああ、君の成長をジルがとても喜んでいた。もちろん私も同じ気持ちだよ」
真っ直ぐに自分を見つめる空色の瞳。料理人の青年とは似ても似つかない、美しく生まれながらに王の風格を持つキュリオ。
「あ、ありがたき御言葉……っ! アオイ姫様もようこそおいでくださいました! ささ、こちらでございます!」
袖口で涙を拭った彼は飛び切りの笑顔で行先を案内する。
「あいがとっ」
キュリオの代わりにアオイがお礼を言うと周りからは歓喜の歓声があがった。
「……アオイ姫様、大きくなられてっ……」
キュリオが皆を招集し、アオイへ祝福を贈ったあの日以来彼女を目にしていなかった者はたくさんおり、その立派な成長ぶりに再び喜びの声があがる。
こうして菜園を歩くキュリオとアオイの後ろを多くの人間がついてまわり、異様な光景となってしまったが、迷うことなく土にまみれる王と姫の姿はニンジンに負けずとても新鮮で楽しげであった――。