【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
神妙な面持ちのアレスはそう言いながら視線をテーブルの上に落として押し黙ってしまった。
幼い姫君の身に起こった理(ことわり)の向こう側に何があるのかを早くも憶測を立て始めているアレスを横目に見ながら、素直な疑問をぶつけてくるカイの視線を真っ直ぐに受け止めたガーラント。
「カイは剣士じゃからのぅ。姫様の身に起きていることがよくわからんのも無理はない。して、……カイは獣と言葉を交わせる姫様が凄いと思ったんじゃな?」
「ああ! だって悪いことなんかあるか!? よく暴れる馬のデリーってやつが何言いたいのかわかったらすげぇと思わねぇ!? あいつ俺を見て鼻息荒くして追いかけて来ようとするんだぜ!?」
「ふぉっふぉっ! じゃがな、カイ。よく聞きなさい」
子供らしい素直な体験談を聞かされたガーラントは真顔になると、立ち上がって窓の光を遮る暗幕と落とし、古びた杖を上下に振るといくつもの光をテーブルの上へ並べていった。
「お、おう……」
視界を遮られたカイは、小さな発光体をじっと見つめながらガーラントが話すのを待っている。
「今ここに並べた光は七つある。これが獣だとすると、姫様はここじゃ」
そう言って水蜜桃色の柔らかな光がカイの目の前に灯される。
「へへっ、アオイ姫様の髪の色そっくりだなっ」
わずかに頬を染めたカイはとてもわかりやすい性格と言えよう。
少年のほのかな恋心に気付きながらも、ガーラントはそれを口にすることなく話を進める。
「……此度(こたび)の姫様が聞いたラビットは、すぐ傍のこの光だとしようかのぅ」
ガーラントが再び杖を上下すると、水蜜桃色の光の傍の発光体がみるみるうちにラビット型に変わっていく。
「魔法って便利だよな~」
この呑気なカイの声色はまだ物事の重大さをわかっていない証拠だが、話を進めるうちにカイのそれらが失われていくこととなる。
「そして……カイの言うデリーはこれじゃ」
ガーラントの魔法によって馬の姿となった発光体だが、他は姿を変えずその場にとどまっている。
「……んで? 人形劇みたいなのが始まるのか?」
「動かすのは姫様を模した光のみじゃ。獣の声が聞こえると言うことは、そこら中にいる獣の声が聞こえてしまうということになるのじゃ」
ガーラントの魔法によって水蜜桃色の光がテーブルに並べられた光のもとへゆっくりと移動していく。
さらに杖を振るったガーラントによって部屋中に散りばめられた発光体は、満天の星空のように煌めいて美しいが、慌てたカイが水蜜桃色の光を両手の中に閉じ込めてしまった。
「……ま、待てって!! アオイ姫様虐めないでくれよっ!!」
すっかり水蜜桃色の光をアオイとして認識しているカイは、その光が宙に漂う発光体すべてのもとへ行こうとするのではないかと己の手で行く手を阻んだのだ。
「つまりはそういうことじゃ。姫様は現時点で御自分の力を制御することは叶わん。すべての獣の声を聞いておったら、お優しい姫様の御心は壊れてしまうじゃろうな」
「……じゃ、じゃあ! キュリオ様にお願いして……!」
そこまで言ったカイはようやくハッと息をのんだ。
「うむ。御自分を癒せぬ癒しの御力も、獣の声が聞こえてしまう御力も誰かがコントロールして差し上げなければならん。じゃがな、現時点で言えることは……それらの御力は今の姫様には無いに越したことはないんじゃよ」
「…………」
カイは手の中で優しく輝く水蜜桃色の光を悲しそうに見つめて口を開いた。
「せっかくの力が……自分を不幸にするなんて、そんなのありかよ……」
幼い姫君の身に起こった理(ことわり)の向こう側に何があるのかを早くも憶測を立て始めているアレスを横目に見ながら、素直な疑問をぶつけてくるカイの視線を真っ直ぐに受け止めたガーラント。
「カイは剣士じゃからのぅ。姫様の身に起きていることがよくわからんのも無理はない。して、……カイは獣と言葉を交わせる姫様が凄いと思ったんじゃな?」
「ああ! だって悪いことなんかあるか!? よく暴れる馬のデリーってやつが何言いたいのかわかったらすげぇと思わねぇ!? あいつ俺を見て鼻息荒くして追いかけて来ようとするんだぜ!?」
「ふぉっふぉっ! じゃがな、カイ。よく聞きなさい」
子供らしい素直な体験談を聞かされたガーラントは真顔になると、立ち上がって窓の光を遮る暗幕と落とし、古びた杖を上下に振るといくつもの光をテーブルの上へ並べていった。
「お、おう……」
視界を遮られたカイは、小さな発光体をじっと見つめながらガーラントが話すのを待っている。
「今ここに並べた光は七つある。これが獣だとすると、姫様はここじゃ」
そう言って水蜜桃色の柔らかな光がカイの目の前に灯される。
「へへっ、アオイ姫様の髪の色そっくりだなっ」
わずかに頬を染めたカイはとてもわかりやすい性格と言えよう。
少年のほのかな恋心に気付きながらも、ガーラントはそれを口にすることなく話を進める。
「……此度(こたび)の姫様が聞いたラビットは、すぐ傍のこの光だとしようかのぅ」
ガーラントが再び杖を上下すると、水蜜桃色の光の傍の発光体がみるみるうちにラビット型に変わっていく。
「魔法って便利だよな~」
この呑気なカイの声色はまだ物事の重大さをわかっていない証拠だが、話を進めるうちにカイのそれらが失われていくこととなる。
「そして……カイの言うデリーはこれじゃ」
ガーラントの魔法によって馬の姿となった発光体だが、他は姿を変えずその場にとどまっている。
「……んで? 人形劇みたいなのが始まるのか?」
「動かすのは姫様を模した光のみじゃ。獣の声が聞こえると言うことは、そこら中にいる獣の声が聞こえてしまうということになるのじゃ」
ガーラントの魔法によって水蜜桃色の光がテーブルに並べられた光のもとへゆっくりと移動していく。
さらに杖を振るったガーラントによって部屋中に散りばめられた発光体は、満天の星空のように煌めいて美しいが、慌てたカイが水蜜桃色の光を両手の中に閉じ込めてしまった。
「……ま、待てって!! アオイ姫様虐めないでくれよっ!!」
すっかり水蜜桃色の光をアオイとして認識しているカイは、その光が宙に漂う発光体すべてのもとへ行こうとするのではないかと己の手で行く手を阻んだのだ。
「つまりはそういうことじゃ。姫様は現時点で御自分の力を制御することは叶わん。すべての獣の声を聞いておったら、お優しい姫様の御心は壊れてしまうじゃろうな」
「……じゃ、じゃあ! キュリオ様にお願いして……!」
そこまで言ったカイはようやくハッと息をのんだ。
「うむ。御自分を癒せぬ癒しの御力も、獣の声が聞こえてしまう御力も誰かがコントロールして差し上げなければならん。じゃがな、現時点で言えることは……それらの御力は今の姫様には無いに越したことはないんじゃよ」
「…………」
カイは手の中で優しく輝く水蜜桃色の光を悲しそうに見つめて口を開いた。
「せっかくの力が……自分を不幸にするなんて、そんなのありかよ……」