【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
キュリオの肩越しに顔を出したアオイが笑顔でこちらに手を振っているが、彼が扉を出るとそれはあっという間に見えなくなってしまった。
「おやすみなさいませ、アオイ姫様……」
振り返していた手を下ろしたカイは寂しそうにそう告げると、アレスと共にそれぞれの棟へと戻ろうとダルドへ挨拶を済ませる。
「そんじゃまた明日ですね! ダルド様!」
「失礼致します。おやすみなさいませ、ダルド様」
「うん」
弾むように駆けて行くカイと、音も立てずにその後ろを行くアレスを見送りながら踵を返したダルドは中庭へと向かって歩き出した――。
――壁に煌めく幾つもの灯の火が照らす最上階へと続く広い階段を、王と王に抱かれた姫君がゆっくりと移動している。
ほどなくして月明りが燦々と差し込む最上階のバルコニーへとやってきた。
漆黒の帳の中に浮かび、眩い光を放つ月を見上げながら眉間に皺を寄せるキュリオ。
(……心がざわめいている。まるで何かが起きる前触れのようだ)
やがて、冷たい風がふたりの体を撫でると、寒さに身を固くしたアオイがキュリオの胸元に縋りついた。
「ああ、ここでは風邪をひいてしまうな。早くあたたまろう」
広い袖の内側にアオイを隠すと、穏やかな笑みを浮かべたキュリオは私室へと向かって歩き出した。
アオイにはまだひとりで開けられないほどの重厚な扉を開き、室内の燭台へ灯をともしながらそのまま湯殿へと向かう。
薄暗い室内は静かに王と姫を迎え入れ、ふたりを癒すために今宵も優しい気配を漂わせている。
湯殿へと続く扉をくぐったキュリオはいつものように己の衣を脱ぎながら、アオイの衣も優しく脱がせていく。
徐々に素肌が触れる面積が広がっていくと、キュリオの繊細な指先がアオイの肌を温めるように、そして確かめるように素肌を撫でる。
「近頃のお前は私が目を離した隙に成長している気がするな」
「?」
不思議そうにこちらを見上げるアオイと視線が絡むと、深い空色の瞳の奥には日々募る彼女への想いが激情の炎を灯していく。
だが、キュリオの感情を揺さぶるのはそれだけではない。
(最近のアオイは外見だけではなく内なる成長を遂げている。
力を眠らせたとはいえ、しばらくは目を離すわけにはいかない……)
「……おとうちゃま?」
キュリオの足が止まると、胸に張り付いたアオイが顔を寄せて瞳を覗き込んでくる。まるでその奥に隠された心を探そうとするように……。
「……」
(アオイは私の心を知ったら幻滅するだろうか)
彼女の問いに無言で答えたキュリオは目元と口元を和らげると、しっとりと吸いつくようなアオイの頬を撫でながら「なんでもないよ」と微笑んで再び歩き出した。
――湯殿から出たキュリオとアオイは、彼の風の魔法で体の水気を一掃させると室内へと戻ってきた。
ローテーブルの側面を飾る銀縁のソファへとアオイを座らせ、侍女らが用意した冷えたグラスに水を注いだキュリオは先にアオイの口へとそれを運びながら自身もそのグラスで喉を潤す。
わずかに開いた窓からは夜風が舞い込むと、艶やかなキュリオの髪がさらりと流れて端正な顔が露わになる。
「さあ、もうひとくち」
片手でアオイの背を抱きながら彼女の愛らしい口元へともう一度グラスを運び傾ける。小さな口の端から流れ出た雫を指先で拭ってやりながら、幾度となくそれらの行為を繰り返し……今宵もまた月明りが降り注ぐバルコニーへと向かった――。
「おやすみなさいませ、アオイ姫様……」
振り返していた手を下ろしたカイは寂しそうにそう告げると、アレスと共にそれぞれの棟へと戻ろうとダルドへ挨拶を済ませる。
「そんじゃまた明日ですね! ダルド様!」
「失礼致します。おやすみなさいませ、ダルド様」
「うん」
弾むように駆けて行くカイと、音も立てずにその後ろを行くアレスを見送りながら踵を返したダルドは中庭へと向かって歩き出した――。
――壁に煌めく幾つもの灯の火が照らす最上階へと続く広い階段を、王と王に抱かれた姫君がゆっくりと移動している。
ほどなくして月明りが燦々と差し込む最上階のバルコニーへとやってきた。
漆黒の帳の中に浮かび、眩い光を放つ月を見上げながら眉間に皺を寄せるキュリオ。
(……心がざわめいている。まるで何かが起きる前触れのようだ)
やがて、冷たい風がふたりの体を撫でると、寒さに身を固くしたアオイがキュリオの胸元に縋りついた。
「ああ、ここでは風邪をひいてしまうな。早くあたたまろう」
広い袖の内側にアオイを隠すと、穏やかな笑みを浮かべたキュリオは私室へと向かって歩き出した。
アオイにはまだひとりで開けられないほどの重厚な扉を開き、室内の燭台へ灯をともしながらそのまま湯殿へと向かう。
薄暗い室内は静かに王と姫を迎え入れ、ふたりを癒すために今宵も優しい気配を漂わせている。
湯殿へと続く扉をくぐったキュリオはいつものように己の衣を脱ぎながら、アオイの衣も優しく脱がせていく。
徐々に素肌が触れる面積が広がっていくと、キュリオの繊細な指先がアオイの肌を温めるように、そして確かめるように素肌を撫でる。
「近頃のお前は私が目を離した隙に成長している気がするな」
「?」
不思議そうにこちらを見上げるアオイと視線が絡むと、深い空色の瞳の奥には日々募る彼女への想いが激情の炎を灯していく。
だが、キュリオの感情を揺さぶるのはそれだけではない。
(最近のアオイは外見だけではなく内なる成長を遂げている。
力を眠らせたとはいえ、しばらくは目を離すわけにはいかない……)
「……おとうちゃま?」
キュリオの足が止まると、胸に張り付いたアオイが顔を寄せて瞳を覗き込んでくる。まるでその奥に隠された心を探そうとするように……。
「……」
(アオイは私の心を知ったら幻滅するだろうか)
彼女の問いに無言で答えたキュリオは目元と口元を和らげると、しっとりと吸いつくようなアオイの頬を撫でながら「なんでもないよ」と微笑んで再び歩き出した。
――湯殿から出たキュリオとアオイは、彼の風の魔法で体の水気を一掃させると室内へと戻ってきた。
ローテーブルの側面を飾る銀縁のソファへとアオイを座らせ、侍女らが用意した冷えたグラスに水を注いだキュリオは先にアオイの口へとそれを運びながら自身もそのグラスで喉を潤す。
わずかに開いた窓からは夜風が舞い込むと、艶やかなキュリオの髪がさらりと流れて端正な顔が露わになる。
「さあ、もうひとくち」
片手でアオイの背を抱きながら彼女の愛らしい口元へともう一度グラスを運び傾ける。小さな口の端から流れ出た雫を指先で拭ってやりながら、幾度となくそれらの行為を繰り返し……今宵もまた月明りが降り注ぐバルコニーへと向かった――。