【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
今夜の悠久の大地も変わらず穏やかだった。
大地を吹き抜ける風にのってキュリオの力がその手から放たれる。瞬く間に広がりゆく癒しの輝きのなんと美しいことか。
アオイは今日も特等席でその輝きを全身に受けながら、掴めそうで掴めない光の粒子へ楽しそうに手を伸ばす。
(優しいアオイのことだ。ラビットが怪我を負った姿をみてどれほど心を痛めたか……)
「この国からすべての悲しみを断つことは不可能だ。だが、その努力を惜しみはしない」
誓うように小さなアオイの背を抱きながら瞼へ口づけを落とすと、その言葉の意味をわかっているかのようにアオイは大きく頷いて満面の笑みを浮かべた。
「ふふっ、誰よりも守りたいお前の笑顔に私は目を離すことが出来ずにいる」
(いつも悠久の大地ばかりを見つめていた私が、いまはアオイばかり見つめている。セシエル様はこんな私を咎めるだろうか)
そうだとしてもキュリオは今が幸せだと迷わずに言い切れる。愛しい存在がいるからこその苦悩もあるが、それすら甘い試練として受け入れるべきなのかもしれない。
(いつかそう思えるよう、必ずアオイを守ってみせる。私の行動がアオイの心に背くとしても――)
バルコニーを後にしたふたりは、燭台の灯りを消したのち天蓋ベッドへとその身を横たえた。
鼻先が触れそうなほどに顔を寄せ合いながら、アオイの甘い香りを堪能するキュリオ。自分の意思で行動し始めた彼女に、もう腕の中にいるばかりの赤子ではないのだとすこしの寂しさを覚えながら優しい眼差しで言葉を添える。
「おやすみアオイ。明日はもっと良い日になる」
ようやく長い一日を終えようとしたふたりだったが、静寂に包まれた暗闇のなかで空色の瞳はいつまでも幼い少女を見つめ、その手は彼女の頬を幾度も行き来する。
「……」
うとうとと瞼が閉じようとするアオイの瞳もまた、息のかかる距離でこちらを見つめる美しい瞳が一行に閉じないことに気づいて瞬きを繰り返す。
「…………?」
「目を閉じた瞬間にお前が大きく成長してしまう気がしてね」
親ならば喜ばしいはずなのに、キュリオの言葉や表情からはそれらが微塵も感じられない。
「だいじょぶ、おとうちゃま。だいじょぶ」
キュリオの言葉の端から彼の不安を感じ取ったアオイはそう微笑んで胸元へ顔を埋める。
「……ああ、ずっとこうしていられたら私の憂いもすこしは和らぐ気がするよ」
愛しいあまりにわずかな隙間も許さないとばかりに、その腕は強く強くアオイに絡みついて離さない。
「…………」
(……おとうちゃま……)
いつも沈着冷静で毅然とした態度を崩さない父から感じるわずかな不安。アオイはその原因が自分にあるとは微塵も思っておらず、どうすれば父の心を癒せるのかをしばらく考えていた。
(わたしが……こうしておそばに居れば、おとうさまは安心できる……? わたしを必要としてくれるなら、わたしは――)
大地を吹き抜ける風にのってキュリオの力がその手から放たれる。瞬く間に広がりゆく癒しの輝きのなんと美しいことか。
アオイは今日も特等席でその輝きを全身に受けながら、掴めそうで掴めない光の粒子へ楽しそうに手を伸ばす。
(優しいアオイのことだ。ラビットが怪我を負った姿をみてどれほど心を痛めたか……)
「この国からすべての悲しみを断つことは不可能だ。だが、その努力を惜しみはしない」
誓うように小さなアオイの背を抱きながら瞼へ口づけを落とすと、その言葉の意味をわかっているかのようにアオイは大きく頷いて満面の笑みを浮かべた。
「ふふっ、誰よりも守りたいお前の笑顔に私は目を離すことが出来ずにいる」
(いつも悠久の大地ばかりを見つめていた私が、いまはアオイばかり見つめている。セシエル様はこんな私を咎めるだろうか)
そうだとしてもキュリオは今が幸せだと迷わずに言い切れる。愛しい存在がいるからこその苦悩もあるが、それすら甘い試練として受け入れるべきなのかもしれない。
(いつかそう思えるよう、必ずアオイを守ってみせる。私の行動がアオイの心に背くとしても――)
バルコニーを後にしたふたりは、燭台の灯りを消したのち天蓋ベッドへとその身を横たえた。
鼻先が触れそうなほどに顔を寄せ合いながら、アオイの甘い香りを堪能するキュリオ。自分の意思で行動し始めた彼女に、もう腕の中にいるばかりの赤子ではないのだとすこしの寂しさを覚えながら優しい眼差しで言葉を添える。
「おやすみアオイ。明日はもっと良い日になる」
ようやく長い一日を終えようとしたふたりだったが、静寂に包まれた暗闇のなかで空色の瞳はいつまでも幼い少女を見つめ、その手は彼女の頬を幾度も行き来する。
「……」
うとうとと瞼が閉じようとするアオイの瞳もまた、息のかかる距離でこちらを見つめる美しい瞳が一行に閉じないことに気づいて瞬きを繰り返す。
「…………?」
「目を閉じた瞬間にお前が大きく成長してしまう気がしてね」
親ならば喜ばしいはずなのに、キュリオの言葉や表情からはそれらが微塵も感じられない。
「だいじょぶ、おとうちゃま。だいじょぶ」
キュリオの言葉の端から彼の不安を感じ取ったアオイはそう微笑んで胸元へ顔を埋める。
「……ああ、ずっとこうしていられたら私の憂いもすこしは和らぐ気がするよ」
愛しいあまりにわずかな隙間も許さないとばかりに、その腕は強く強くアオイに絡みついて離さない。
「…………」
(……おとうちゃま……)
いつも沈着冷静で毅然とした態度を崩さない父から感じるわずかな不安。アオイはその原因が自分にあるとは微塵も思っておらず、どうすれば父の心を癒せるのかをしばらく考えていた。
(わたしが……こうしておそばに居れば、おとうさまは安心できる……? わたしを必要としてくれるなら、わたしは――)