【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
 街のシンボルとも言える小高い地より街を見下ろすような場所に建てられたこの迎賓館は、万が一の災害にも耐えられるようかなり強固に作られている。
 話を聞くと、この五十年の間にここへ避難する必要があったのはたった一度とのことだった。

「……ふむ。なかなか興味深い話ですな。あの日、その様な異常気象を儂らは感知できませんでした」

 ウォルター家の長男である彼より報告を受けたのち、キュリオの隣で待機していたガーラントはわずかに眉間へと皺を寄せて囁いた。

「この件だけでは何とも言えないというのが正直なところだが……、アオイが現れた日に聖獣の森の泉が干上がっていたのを覚えているか?」

「……はい。まさか、その泉がこの地に降り注いだと……」

「あの日より数か月前までこの辺りでは稀に見る干ばつが続いてたと言っていたな」

「……ですな。ある程度の被害は免れようがなかったみたいですが、それが恵の豪雨となったと言っておりましたな」

 気象の異常が続いている場合、国へ報告すれば幾らでも魔術師の支援を受けることができる。それを民の力でなんとかしようと試みるのは素晴らしい努力だが、無理をする必要はないことを改めて伝え聞かせねばならない。

「この街の水質を調査する必要がありそうだな。生息する生物の調査もだ」

「畏まりました。なるべく騒ぎになりませんよう、日が落ちてから同行させた者たちだけで調査致します」

「そうだな。わざわざ不安を掻き立てるようなことは伏せておいたほうがいいだろう」

(……まさかこのような場所でアオイの出生の手掛かりが見つかるわけではないだろうな……)

 まったく無関係とは言い切れない出来事に胸騒ぎがする。
 もしかしたらアオイと血の繋がりのある者がこの街にいるかもしれない。そう考えただけで崖の上に立たされているような……奈落の底が大きく口を開けて手をこまねいているような錯覚に陥りそうだ。

(今更だ。何を不安になる必要がある……。アオイと血の繋がりのある者が名乗り出たところで私の意思はとうに決まっているのだから――)
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