【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
 やがて夜の帳が降りはじめたころ、館の中庭では至る所に燭台が設置され傍に飾られた豪勢で色鮮やかな花を照らしながら色づいた光へと変化して華やかな空間が出来上がっていた。
 光の通路が演出されたその奥、一際盛大に装飾された小高い壇上には大理石のテーブルが設置されている。二つの席のうちのひとつは大魔導師、さらにもうひとつは……滅多に目にすることのできない銀の装飾が施された玉座のような神々しい造りの椅子は王のために用意されたものだ。

 玉座を中心に逆Vの字の並べられたキュリオ一行の席は、キュリオに近づけば近づくほどに王に仕える重鎮らの席となっており、いくら街の富豪といえどもその尊顔を拝見するにはかなり遠いものとなっていた。さらに中心には広い空間が設けられ、その両脇には灯をともした燭台が掲げられていることから何かを成す場所であることは誰の目にも明らかだった。

「これじゃあキュリオ様に取り入ることも出来ないじゃない!!」

 あまりに遠い王までの距離。無謀にも鼻から王を狙っていた令嬢らはギリリとハンカチに噛みついて悔しがっている。

「あーん、これじゃあせっかくのおしゃれも無駄に終わりそう~」

 会場の端で会場の準備が終わるのを待っていた別の女は素顔がわからぬほどに派手な化粧、自慢の体には際どいほどに布の少ないもはや下着のようなドレスに惜しみなく宝石をあしらって身に纏いながら女性の色香を漂わせてわずかなチャンスを物にしようとその瞳はギラついている。

「あんたは適当な金持ちの中年男で十分でしょ!!」

「ふざけないで! それはあんたでしょっ!!」

 踊り用の飾りがついた扇子でいまにも殴りかかりそうな勢いで女たちの群れがいがみ合っている後ろでは、いくつもの香水が混ざり合うきつい香りにむせ返りそうになりながらあの三人の少女が立ち竦んでいた。

「王様の御許しが出たって聞いたけど……すごい人数だね」

 豊満なボディを晒した美女の群れに圧倒されたマイラは、貧相な体の自分が所持している一番のドレスさえ地味に見えて更に自信をなくす。

「武芸に長けた人たちが来てるって聞いたけど、綺麗なひとばっかりだねぇ。踊り子かな?」

「わ、わたしたち……大丈夫かなぁ……」

 比較的気丈なマリ―は呑気にそう言っているが、弱きなシンシアなど足が竦んでしまっているようだ。
 すると、突如背後から浴びせられた声によって女の顔は醜い引き攣りを見せる。

「踊り子の命とも言える扇子を武器にするなんて芸に愛がない証拠ね。それに手足に筋肉がついていない……昨日今日はじめた芸をキュリオ様に御見せしようだなんて恥ずかしいと思わないの?」

 胸元が大きくひらき、くびれた腰回りの布を最小限にとどめながらも品良く着こなしたその声の主は侍女を数人従えたエリザだった。

「くっ……たかが家の名を翳しただけの令嬢がっ!!」

 図星のことを言い当てられた先ほどの女がエリザに飛びかかろうと地を蹴った。
 と、その時――

 ゴォッ! という音と共に鉄拳を繰り出したエリザの拳が女の左頬の前でピタリと静止したが、触れていないはずのそこからは鮮血が流れた。

「きゃあっ!!」

 悲鳴をあげて腰を抜かした女にあたりは息をのんで一歩後退りしたが、地鳴りのような歓声が轟いて一時騒然としたその場の雰囲気はあっという間に一層された。


「キュリオ様だっ!!」

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