【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
【キュリオ様要素多め】ショートストーリー☆ キュリオとエデン、時々アオイ
とある彼らの日常をこっそり覗いたお話でございます。
タイトル:キュリオとエデン、時々アオイ
出演:キュリオ
エデン
アオイ
キュリオの恋わずらいを聞いてから更に数日後――。
エデンはちょっとした用事のため再び悠久を訪れていた。
朝食が済んだばかりの早朝、キュリオは幼子を抱いて中庭に出ていた。
「すまないアオイ、今日は公務があって一緒にいられないんだ……」
寂しそうに視線を落とすキュリオ。彼の表情から何かを察したのか、腕の中の幼子は眉間に皺をよせ……悲しそうに瞳を潤ませた。
「あぁ……片時も離れたくないのは私も同じだよ。もう少し君が大きくなれば一緒に連れていけるのだけれど……」
大人たちのつまらない話など赤子のアオイにとっては雑音でしかない。落ち着いて休める場所もなければ、あたたかいミルクも用意できるかわからないのだ。
「許しておくれ……」
キュリオがすまなそうに頬を寄せる。このままずっと彼女のぬくもりを感じていたい……と願ったその時――。
「キュリオ殿、朝早くに申し訳ない。実は頼み事があってだな……」
「……?」
振り返った悠久の王は、白銀の鎧に身を包んだ猛々しい第四位の王の姿を視界にうつした。
「エデン……どうしたんだい? こんな時間に」
「あぁ、実は……」
エデンの用件はこうだ。
満月の夜の悠久にしか咲かない、傷にとても良いとされる草花をいくつか譲ってほしいというものだった。
「もちろんだ。
あの花なら湖の畔(ほとり)に咲いている。次の満月の夜に持っていくといい」
悠久の国には<慈悲の王>キュリオや治癒の力を持つ魔導師たちがいる。つまりは怪我や病気を治す薬の心配はいらないため不足することもない。
「傷がひどいのであればここへ連れてきても構わないが……」
心配するキュリオにエデンは小さく首を振って答える。
「いや、鍛錬での怪我だからな。大したことはないんだ」
すると安心したように<慈悲の王>は"そうだったのか"と表情を緩めた。
「礼を言わなくてはな……キュリオ殿。ありがたく頂戴する」
そんなエデンの言葉を聞いたキュリオは――
「……礼か……。なら、ひとつ私の頼みを聞いてもらえるかい?」
驚いた様子のエデンだが、唯一無二のキュリオの頼みを断る理由はない。
「もちろんだ。俺に出来ることなら何でも言ってほしい」
と穏やかな表情を浮かべる。
「ありがとう。君なら安心だ」
キュリオも心底ほっとしたように明るい笑顔を見せた。
「私はこれから公務があって手が離せない。
……つまり、この子を一日預かって欲しくてね。他の者だと心もとないんだ」
キュリオは腕に抱く赤子へと視線をうつし、暗い表情を向けた。
「…………」
(たしか体が弱いと言っていた……あの赤子か……)
「あぁ、それならお安い御用だ。キュリオ殿が戻られるまで俺が見ていよう」
さっそく赤子を預かろうとエデンが手を差し伸べる。……が、キュリオはその子を手放そうとしない。
「……キュリオ殿?」
エデンが不思議そうに彼の表情を伺うと、キュリオはようやく顔を上げた。
「いくつか頼みがある。本当にこの子はまだ小さくてね……」
「なんでも言ってくれ」
(よほど心配なのだろうな……)
キュリオの心境を理解したエデンは心穏やかに彼の話へ耳を傾ける。
「彼女はミルクを三分の一程度しか飲まないんだ。あまり無理に与えると体調を崩してしまうから気をつけておくれ」
「あぁ。わかった。ミルクの量だな」
エデンは"うんうん"と快く頷いている。
「ミルクの後は抱いたまま背中を擦ってやって欲しい。おそらくそのまま眠ってしまうだろうから、私のベッドを使ってくれ」
「そうか、キュリオ殿寝室は……城の者に聞けばわかるか」
「……それと、最近足腰の力がついてきたようでね……寝返りに気をつけてくれ。この間、危うくベッドから落ちてしまうところだったんだ」
「なるほど。"成長の証"というやつかもしれないな」
時折嬉しそうに語るキュリオの言葉へ耳を傾けていると、どれほど彼が赤子に入れ込んでいるかがわかる。
「もし、この子がどうしても湯殿に入りたいというなら、なるべく彼女の肌を見ないように湯浴みを頼む。女の子だからね……例え君であっても男の目には触れさせたくないんだ」
「ん……?
あぁ、父親のような本音が出てきたな。キュリオ殿」
「……? それは無論だ。血は繋がっていなくとも私たちは親子だ」
(さすがは<慈悲の王>だな……)
詳しい事情を知らぬエデンは感心した眼差しでキュリオを見ている。
「それから、いくら可愛いからと言って顔に口付けはしないでくれ。もしするのなら……手の甲、いや……やはり……どこにもしないでくれ」
「わかった。わかった」
ははっと笑うエデンだが、キュリオの口調がだんだん強くなってきている気がした。
「"あーん"も駄目だ。それはいくらエデンでも許可は出来ないよ」
「"あーん"……?」
「言うのを忘れていた。ミルクをあげるときの角度はこのくらいだ。"人肌ていど"で頼む」
「それから……」
「………………」
「…………」
「……」
キュリオの"頼み"は日が傾き、夕暮れを迎えても続いた。
いよいよ覚えられなくなってきたエデンは、茜色に燃える空を見上げ……ひとつの疑問をキュリオに投げかける。
「……なぁ、キュリオ殿……」
「この子はまだ歩けないからね……なんだい? エデン」
「……公務はいいのかと思ってだな……」
「あぁ。それなら……」
「すべてキャンセルした」
キュリオとエデン、時々アオイ
❤おしまい❤
タイトル:キュリオとエデン、時々アオイ
出演:キュリオ
エデン
アオイ
キュリオの恋わずらいを聞いてから更に数日後――。
エデンはちょっとした用事のため再び悠久を訪れていた。
朝食が済んだばかりの早朝、キュリオは幼子を抱いて中庭に出ていた。
「すまないアオイ、今日は公務があって一緒にいられないんだ……」
寂しそうに視線を落とすキュリオ。彼の表情から何かを察したのか、腕の中の幼子は眉間に皺をよせ……悲しそうに瞳を潤ませた。
「あぁ……片時も離れたくないのは私も同じだよ。もう少し君が大きくなれば一緒に連れていけるのだけれど……」
大人たちのつまらない話など赤子のアオイにとっては雑音でしかない。落ち着いて休める場所もなければ、あたたかいミルクも用意できるかわからないのだ。
「許しておくれ……」
キュリオがすまなそうに頬を寄せる。このままずっと彼女のぬくもりを感じていたい……と願ったその時――。
「キュリオ殿、朝早くに申し訳ない。実は頼み事があってだな……」
「……?」
振り返った悠久の王は、白銀の鎧に身を包んだ猛々しい第四位の王の姿を視界にうつした。
「エデン……どうしたんだい? こんな時間に」
「あぁ、実は……」
エデンの用件はこうだ。
満月の夜の悠久にしか咲かない、傷にとても良いとされる草花をいくつか譲ってほしいというものだった。
「もちろんだ。
あの花なら湖の畔(ほとり)に咲いている。次の満月の夜に持っていくといい」
悠久の国には<慈悲の王>キュリオや治癒の力を持つ魔導師たちがいる。つまりは怪我や病気を治す薬の心配はいらないため不足することもない。
「傷がひどいのであればここへ連れてきても構わないが……」
心配するキュリオにエデンは小さく首を振って答える。
「いや、鍛錬での怪我だからな。大したことはないんだ」
すると安心したように<慈悲の王>は"そうだったのか"と表情を緩めた。
「礼を言わなくてはな……キュリオ殿。ありがたく頂戴する」
そんなエデンの言葉を聞いたキュリオは――
「……礼か……。なら、ひとつ私の頼みを聞いてもらえるかい?」
驚いた様子のエデンだが、唯一無二のキュリオの頼みを断る理由はない。
「もちろんだ。俺に出来ることなら何でも言ってほしい」
と穏やかな表情を浮かべる。
「ありがとう。君なら安心だ」
キュリオも心底ほっとしたように明るい笑顔を見せた。
「私はこれから公務があって手が離せない。
……つまり、この子を一日預かって欲しくてね。他の者だと心もとないんだ」
キュリオは腕に抱く赤子へと視線をうつし、暗い表情を向けた。
「…………」
(たしか体が弱いと言っていた……あの赤子か……)
「あぁ、それならお安い御用だ。キュリオ殿が戻られるまで俺が見ていよう」
さっそく赤子を預かろうとエデンが手を差し伸べる。……が、キュリオはその子を手放そうとしない。
「……キュリオ殿?」
エデンが不思議そうに彼の表情を伺うと、キュリオはようやく顔を上げた。
「いくつか頼みがある。本当にこの子はまだ小さくてね……」
「なんでも言ってくれ」
(よほど心配なのだろうな……)
キュリオの心境を理解したエデンは心穏やかに彼の話へ耳を傾ける。
「彼女はミルクを三分の一程度しか飲まないんだ。あまり無理に与えると体調を崩してしまうから気をつけておくれ」
「あぁ。わかった。ミルクの量だな」
エデンは"うんうん"と快く頷いている。
「ミルクの後は抱いたまま背中を擦ってやって欲しい。おそらくそのまま眠ってしまうだろうから、私のベッドを使ってくれ」
「そうか、キュリオ殿寝室は……城の者に聞けばわかるか」
「……それと、最近足腰の力がついてきたようでね……寝返りに気をつけてくれ。この間、危うくベッドから落ちてしまうところだったんだ」
「なるほど。"成長の証"というやつかもしれないな」
時折嬉しそうに語るキュリオの言葉へ耳を傾けていると、どれほど彼が赤子に入れ込んでいるかがわかる。
「もし、この子がどうしても湯殿に入りたいというなら、なるべく彼女の肌を見ないように湯浴みを頼む。女の子だからね……例え君であっても男の目には触れさせたくないんだ」
「ん……?
あぁ、父親のような本音が出てきたな。キュリオ殿」
「……? それは無論だ。血は繋がっていなくとも私たちは親子だ」
(さすがは<慈悲の王>だな……)
詳しい事情を知らぬエデンは感心した眼差しでキュリオを見ている。
「それから、いくら可愛いからと言って顔に口付けはしないでくれ。もしするのなら……手の甲、いや……やはり……どこにもしないでくれ」
「わかった。わかった」
ははっと笑うエデンだが、キュリオの口調がだんだん強くなってきている気がした。
「"あーん"も駄目だ。それはいくらエデンでも許可は出来ないよ」
「"あーん"……?」
「言うのを忘れていた。ミルクをあげるときの角度はこのくらいだ。"人肌ていど"で頼む」
「それから……」
「………………」
「…………」
「……」
キュリオの"頼み"は日が傾き、夕暮れを迎えても続いた。
いよいよ覚えられなくなってきたエデンは、茜色に燃える空を見上げ……ひとつの疑問をキュリオに投げかける。
「……なぁ、キュリオ殿……」
「この子はまだ歩けないからね……なんだい? エデン」
「……公務はいいのかと思ってだな……」
「あぁ。それなら……」
「すべてキャンセルした」
キュリオとエデン、時々アオイ
❤おしまい❤